他の疾患での受診がきっかけで、見つかるがんも多い。医療機関全体の受診控えが、進行がん増加につながると、専門家は危惧している(撮影/写真部・松永卓也)
他の疾患での受診がきっかけで、見つかるがんも多い。医療機関全体の受診控えが、進行がん増加につながると、専門家は危惧している(撮影/写真部・松永卓也)
AERA 2021年2月8日号より
AERA 2021年2月8日号より
AERA 2021年2月8日号より
AERA 2021年2月8日号より
AERA 2021年2月8日号より
AERA 2021年2月8日号より

 コロナ禍でがん検診は一時ストップし、受診者数は激減した。日本では毎年約100万人ががんと診断され、40万人近くががんで亡くなる。専門家は「検診は不要不急ではない」と訴える。AERA 2021年2月8日号は「がん」を特集。

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 昨年11月初旬、パート従業員の女性(49)は風呂で体を洗っているとき、右胸の小さな硬いしこりに触れた。

 いやな予感がした。女性は母親を乳がんで亡くしており、40歳以降は自治体が実施する乳がん検診を2年に1度、必ず受けてきたが、昨年3月の予約はキャンセルしてしまった。新型コロナウイルスの感染者数が増えていく状況を目の当たりにして「クリニックで感染してしまうのでは」と怖くなったのだ。

 しこりを見つけたのは金曜日。週明け月曜日に乳腺クリニックを受診、マンモグラフィーと超音波検査を受け、「がんの可能性が高い」と診断された。さらに3日後に組織を取って調べる検査を受け、11月中旬にはステージIの乳がんだと確定。進行の速いHER2陽性乳がんで、しこりは直径11ミリと小さかったものの、がんが乳管を破って外に浸潤していた。12月10日には乳房全摘の手術を受け、今年1月から抗がん剤治療を開始。3カ月後には分子標的薬の治療も加わる。女性は言う。

「抗がん剤投与から3日くらいは体調が悪くてパートに行けず、収入も減りました。こういうご時世なのでやめさせられないか不安です。抗がん剤も分子標的薬も高いし、子どもが大学に入学したばかりなので、経済的にもきついです」

 抗がん剤の副作用で髪が抜け、最近ウィッグを購入した。もう少し早く見つかっていたら、せめて薬物療法は避けられたのではないか。そう医師にたずねると、「浸潤径が5ミリまでなら薬物療法はやらなかったけど、半年前なら大丈夫だったとは言い切れない」と言われた。それでも、「あの時キャンセルせずに受けていれば」という思いが消えない。

 新型コロナの感染拡大で医療機関の病床が逼迫する一方、コロナ以外の疾患や検診の受診率は低下している。

 日本対がん協会が各支部で実施する住民検診の受診者は20年3月以降激減、1月から7月の累計は前年比55%減となった。秋の検診から回復傾向にあるものの、同協会のがん検診研究グループマネジャー・小西宏さんは、「2020年度の受診者は例年比で3~4割程度減るだろう」と予測している。日本では毎年、約100万人が新たにがんと診断されている。そのうち、胃・大腸・肺・乳房・子宮頸の5大がんは58万人、そのうち約22%が検診・健康診断・人間ドックなどで発見されている。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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