処遇も隔たりがある。菊地さんによれば、専門の分野や経験、地域によっても異なるが、看護師の収入は概して高いものと米社会では認識されているという。NPは一般の看護師よりも高めではあるが、新卒でも1千万円ほどあるという。

「少なくとも自分の周辺では、コロナ禍で職場を去る看護師の話は聞いたことがありません」(菊地さん)。責任に見合った処遇や、社会に認められているという満足感がそこにはあるのかもしれない。

 実は、国内でもこうした米国のNPの制度を参考にした仕組みがあり、関係者が国家資格化を目指している。一般社団法人日本NP教育大学院協議会(事務局・大分県立看護科学大学)が11年から行っている資格認定試験で、「診療看護師(NP)」と呼んでいる。

 その動きは大分県で始まった。同協議会会長を務める草間朋子・東京医療保健大学名誉教授はそのきっかけについてこう話す。

「当時、大分県では医師の偏在による医療の地域格差が大きな問題になっていました。一方で、看護系の大学が増えると同時に、大学院を設置する大学も増えました。増加しつつある大学院の教育を社会にしっかり還元していくことで、県民のみなさんに医療を公平にかつタイムリーに提供できる看護師をしっかり養成していきたいと考えました。どのような看護師がよいか考えたときに、米国型のNPの導入が参考になると考えました」

 これまでに487人が診療看護師の資格を得て、全国の医療機関などで活躍している。しかし、一般の看護師との違いが法で裏付けられているわけではなく、運用で業務の裁量の範囲を広げているというのが現状だ。

■必要なときにいつでも

 日本看護協会の井本寛子常任理事によれば、国内で目指しているのは、米国のように医師の指示を受けずとも一定レベルの診療や治療を行うことができる公的な資格だ。こうした資格が必要と考える理由は、将来的にさらに進む高齢化によって医療に対するニーズがより高まっていくことがある。また、医師の働き方改革を進めながら「必要なときにいつでも必要な医療」の提供体制を守らなければならないという事情もある。

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