■菅氏の強硬姿勢が背景

 安倍・菅政権は沖縄の反対を踏み破って新基地建設を進めてきた。ここで疑問が湧く。陸自のための基地だから、異様な執念を燃やしてきたのか。陸自幹部はそうではないと言う。

「安倍政権になって新基地が現実的になり、陸自と海兵隊の極秘合意につながった」

 一貫して沖縄政策を仕切る菅氏の強硬姿勢が、現場に「理想郷」を夢見させたということだ。

 新基地が完成する見通しは立っていない。最大の難問は「マヨネーズ並み」といわれる海底の軟弱地盤。陸自が活用を期待する岸壁予定地の真下にも横たわる。

 逆に、県民の世論は硬化するばかりだ。政府は米軍に比べれば自衛隊の方が県民に受け入れられやすいと期待していた。だが、だまし討ちの計画が報道で露見してしまい、県民の批判はむしろ高まっている。

 政府は火消しに必死だ。過去に合意があったこと、基地に置かれる陸自施設の計画図面などを作ったことはほぼ認めつつ、「今は終わった話」という筋書きを描いた。菅首相は国会で「従来より恒常的な共同使用は考えていなかった」と踏み込んだ。しかし、沖縄タイムスの取材にホワイトハウス元高官が常駐案の報告を受けていたと証言し、矛盾があらわになっている。

 輸送機オスプレイの普天間配備も25年前から計画されていたのに、政府は米側に頼み込んで秘密にしてもらい、それが米公文書で発覚した後も「聞いていない」と主張し続けた。同じ光景が繰り返される。

■尖閣有事には使えない

 民意、技術的課題、巨額の予算。目的もあやふやになり、新基地にはあらゆる困難が待ち受ける。そして、基地ができなくても日本に危機は訪れない。

 米海兵隊は時代遅れになった「殴り込み部隊」の姿と決別し、歩兵を減らし、ミサイル部隊の創設に動いている。敵の攻撃を避けるため分散して動き回る新戦略下では、沖縄に大規模な固定拠点は必要ない。

 陸自の水陸機動団は、昔の海兵隊を周回遅れで追いかけている。13年に発足を決めた後、中国のミサイル能力が急速に強化され、5年後に誕生した時点ではすでに戦略的妥当性を失っていた。

 主要装備の水陸両用車についても、防衛省内局幹部は「使えるのは砂浜だけ。岩場の尖閣には上陸できない」と明かす。尖閣諸島有事に駆け付けるというイメージと実態はかけ離れている。

 オスプレイは事故の多さからさらに悪名が高い。中国が優勢を強める地域で単なる輸送機にできることも少ない。陸自幹部は「水陸両用車は古い。オスプレイも正規軍相手では活動が難しい。米国に買わされた、ということなのかもしれない」と声を潜めた。

 米国側の都合で軍事的に意味が少ない装備を買わされ、意味が少ない新基地を造らされる。そのために、日本国民の税金が注ぎ込まれている。

 沖縄は民主主義の枠内でできることは何でもしてきた。たび重なる選挙や住民投票で建設反対の民意を示し、現場に座り込んで抗議している。

 それでも、工事は止まらない。政権が沖縄で何をしても、支持率は変わらなかったから。逆に本土の国民が気づけば、迷走を極める辺野古新基地問題はあっという間に終わる。(沖縄タイムス編集委員・阿部岳)

AERA 2021年2月8日号