「論理的な思考を得意とするメンバーが多く、社内ではきれいな説明ができる人が目立ちます。普段は寡黙な技術者が生き生きと表現しています」

インスタやアップルも

 アートに注目しているのは、日本国内だけではない。配信大手ネットフリックスでは、雑誌「The New Yorker」の表紙をデザインするクリストフ・ニーマン氏やインスタグラムのアプリやユーザーインターフェース(UI)をデザインしたイアン・スパルター氏ら、錚々たるデザイナーに密着したドキュメンタリー「アート・オブ・デザイン」が配信されている。

 例えばインスタグラムは、若年層の間では、もはや日常生活のツールの一つといっても過言ではない。そのレベルにまで存在感を押し上げたのは、ストレスのない使いやすさや見せ方、つまりデザインに依拠するところが大きい。

 先のインスタグラムのスパルター氏は、昨年、アエラの取材でこう答えていた。

「マンホールのデザインや地下鉄の音、アナウンスのすべてにインスピレーションを受けています。陶芸や木工、針金など、都道府県ごとにそれぞれ違った伝統的な光景があります」

 スパルター氏は活動の拠点を19年に日本に移して以来、日々の暮らしの一つひとつが刺激になっているという。デザインやアートと聞けば身構える人もいるだろう。だが、スパルター氏の言葉は、デザインの本質が日常に宿っていることを意味する。

 アップル創業者スティーブ・ジョブズ氏もしかり。若かりしころ、大学の構内に貼られたポスターやラベルの文字に魅了され、西洋の文字書式「カリグラフィー」に心酔したジョブズ氏は、文字の組み合わせやスペースのあけ方までを美しく見せる秘訣を追求。のちのマッキントッシュ誕生につながった話はあまりに有名だ。見た目の美しさだけではない、創造性を育む思考をもたらした。

(編集部・福井しほ)

AERA 2021年2月1日号より抜粋

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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