療養中の食事は、野菜が少なく揚げ物など比較的重たいものが多かった。地域によって基準は一様ではないが、東京都など多くの自治体では、常温で保存できるものならプチトマトやミカンなども持ち込めるという。

「知らない場所で寝るのがあまり得意ではなく、自分の毛布を持ち込みましたが、室温を調整できない部屋だったので、暑さ寒さを防ぐのにとても役に立ちました。ただ乾燥がひどく、小型の加湿器や保湿グッズがあればと悔やみました」

 何よりつらかったのが、1日の長さだ。3食の弁当を取りに行くとき以外は部屋を出られず、パソコンやスマホで動画などを眺めて時間を潰すしかない。ベッドでも充電しながら使えるよう、延長コードがあると便利だと感じたという。

 この女性が感染と療養を経験して何よりも驚いたのは、実は身近に感染経験者が多かったことだという。女性がSNSで感染を公表すると、複数の知人から「実は私も」と連絡が来た。

「テレビではあんなに言っているけれど、自分の周りにはいないと思っていた。でも、そんなことはなくて、知らないだけで身近なものでした。すぐそばに迫っていると思って準備しておいた方がいいと思います」

■「災害」として備えよう

 自宅か、ホテルか、入院か。医療体制が逼迫し、自分で選べる場合ばかりではない。最近は自宅で急変するケースも多く報道され、自宅療養に不安を感じる人も多いだろう。

 自宅療養中のサポートは、各自治体が拡充を急いでいる。

 東京都の場合、25日から都内全域で朝・夕の2回、自宅療養者にLINEアプリを用いた健康観察を行うほか、24時間対応の電話相談窓口も開設。必要に応じて医師の問診を受けられるようにする。これまでは多摩地区のみのサービスだったが、23区などにも拡充する。これまで自治体ごとに対応が異なっていた自宅療養中の食料の提供も、都として希望者全員に始めるという。

「安心して療養生活を送っていただけるよう、サービス拡充に努めています」(都福祉保健局)

 岡田教授は、感染症流行は地震の備えと同じ災害対応と考えてほしいと訴える。

「コロナは、個々が感染すれば『病気』ですが、みんなが病気になると大流行して『パンデミック』となって、これは『災害』と同じです。自然災害から身を守るには備えが大事ですが、コロナもいつ感染するかわかりません。被害をできるだけ減らす『減災』の考え方を持ち、しっかり備蓄する必要があります」

(編集部・野村昌二、川口穣)

AERA 2021年2月1日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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