この状態の時はいわゆる満腹状態で、餌を必要としていません。鯛やメバルなどの「有胃魚」が、海中でのんびりとしているようにみえるのに比べて、胃のないサンマやイワシが、一日中、海の中を泳ぎまわりながら、プランクトンなどの餌を食べ続けているのには、こんな理由があるんです。

 余談になりますが、逆に複数の胃袋を持っている生き物として有名なのは牛ですよね。牛は四つの胃袋を持っていて、食べた草を何度も反芻しながら消化していきます。他にも、ニワトリやハトなども二つの胃袋を持っているのはご存じでしょうか?

 一つは、消化液を出して食べ物を消化する「腺胃」と呼ばれる胃で、もう一つが鳥類独特の「筋胃」と呼ばれる胃です。

「筋胃」は通称「砂肝」と呼ばれていて、中には鳥が飲み込んだ小石が入っていて、歯の代わりに食べたものを細かく砕く役割をしています。

 鳥たちも、食べたものを「腺胃」と「筋胃」の間を何度か行き来させながら、細かく砕いて消化しています。

 ところで皆さんは、「金魚のフン」という言葉を聞いたことがあると思います。筆者には4歳下の弟がいるんですが、彼は小学校に上がるまでは、どこへいくのにも筆者のあとについてくるので、周囲からは「金魚のフンやな」と言われていました。

 この例えは、水槽の中を泳ぐ金魚が、自分のフンを糸のようにお尻からたなびかせている様子を表したものです。

 この「金魚のフン」も、金魚に胃がないことによるものです。食べた餌が消化されながら腸から肛門に送られ、どんどんところてんのように押し出されているためなんです。

 そして金魚の水槽を見ていると、他の金魚のフンを食べている金魚を見たことがありませんか?

 金魚をはじめとする「無胃魚」は、食べた餌から栄養分を取り込む効率が悪いため、一度排泄されたフンの中にもまだまだ栄養素が残っているんです。そして一回の餌から摂取できる栄養素も少ないため、一日中餌を食べ続ける必要があるんです。そのため、他の金魚のフンでも普通に食べて、残った栄養素を摂取しているんです。そしてまたフンとして排出するということを繰り返しています。お食事中に読んでいる方がいたらすみません……。

 ちなみに、筆者はまだ食べたことはありませんが、マグロやブリなど大型の魚の胃袋は食べられて、食感もコリコリとさっぱりとしていておいしいんだとか。機会があったらチャレンジしてみたいと思います。

 くら寿司では、魚の胃袋は販売していませんが、「無胃魚」であるイワシやサンマのお寿司は販売しています。魚の胃袋のことを考えながら、胃袋を満たすというのはいかがでしょうか? もちろん食べすぎないように、食べる量はきちんとコントロールしながら……。

○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長

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岡本浩之

岡本浩之

おかもと・ひろゆき/1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2021年1月から取締役 広報宣伝IR本部 本部長。

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