東京都練馬区のよしだ内科クリニックの吉田章院長(68)はこう話す。

「地域医療に貢献したいと発熱外来を設けたが、小さな診療所では動線を分けづらい。誰が感染しているかわからないなか、発熱患者を診るのも大変」

 忙しく心労もあるが、収入は減った。固定費が少ないため、「まだ致命的ではない」という。

 実際、収入が減った医師は少なくない。冒頭の大学病院の麻酔科医は、もともとが毎月十数万円という薄給だったが、ボーナスが減らされてこの冬はたった数万円。「命を削って我慢した、その対価がこれなのか」と憤る。

 AERAの現役医師たちへのアンケートで20年の年収が前年と比べて変化したか尋ねたところ、「増えた」と回答したのは、「少し(50万円未満)」と「大幅に(50万円以上)」合わせて1割程度だが、「減った」という医師が3分の1超もいた。開業医に絞ると、年収が減った人は55.6%にものぼった。

 コロナ禍で医師のアルバイトが激減している影響も大きい。前出の阿部さんは旭川医科大学病院で常勤医として働く傍ら、旭川市内の吉田病院などで、非常勤で病棟での診療を担当していた。だが昨年11月に吉田病院で院内感染が発生、勤務がなくなり、月収は4割も減った。

 いま、医師に起こっている未曽有の変化を、ある医師紹介会社の担当者はこう話す。

「医師の収入はコロナで打撃を受けています。以前は時給1万円の負担の少ないアルバイトもありましたが、現在は条件のいいバイトは競争率が上がっています」

 ドラマ「ドクターX」の制作協力にも携わった、フリーランス麻酔科医の筒井冨美さん(54)によると、健康診断など高度なスキルが不要で高額なアルバイトは、コロナ禍で消滅。現在時給1万円を超すのは発熱外来など、リスクの高いコロナ関連のアルバイトがほとんどだという。

 筒井さん自身も、前年と比べて昨年4月は32%、5月は57%と収入が大幅減。今は「8掛けぐらい」というが、フリーランスという働き方を選んだ時点で、収入に波があるのは覚悟していたし、仕事が減った分、自分の時間が増えて納得感もある。だが、本給が少なく、バイトをあてにしていた大学病院の医師たちの間では不満感が強いという。

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