一つは、心理学で「心理的リアクタンス」と呼ばれるものだ。感染症の拡大によって自由な行動に制約を受けると心の健康に影響が出やすくなる一方で、外に出て行動することがより貴重な体験に思えてくる。そこで、自由を回復させるための行動につながるのだという。他にも、他者との同調傾向も動機の一つかもしれない。

 想像力の欠如についてはどうか。高橋准教授はむしろ、想像するための正確な情報を最初から持ち合わせていない可能性を指摘する。背景として、水島教授と同様、メディアの報道のあり方が関係している可能性があるとみる。

「メディアの議題設定、ないしは取り上げるフレームが劇場型になっていて、個人の行動を方向づける情報が少ない可能性がある。むしろ分科会の発信の方が具体的になっているようです。実行してよい行動の提示も少なくなっており、視聴者が選択肢を持ち得ていないのではないでしょうか」

 想像力の欠如があったとしても、それは単に個人の問題ではないというわけだ。

■一方的な論調には注意

 とはいえ、今は再度の緊急事態宣言下にある。自分が感染のリスクが高い人や医療機関の従事者でなくとも、他者に対して一定程度の想像力を発揮するべきだと期待するのは自然なことだろう。

「自分とは異なる人たちが置かれた困難な状況について、関心を持って知ろうとし、また、想像力を働かせるようにしてみてください」

 放送大学の北川由紀彦教授(都市下層の社会学)は昨年5月27日、同大で制作した動画で想像力の大切さについてメッセージを出していた。

 コロナのような感染症や災害などでは、弱者がより困難な状況に陥ってしまう傾向にあるという現実を踏まえて発した言葉だった。年末年始にみられたような、街に出る人を非難する自粛警察のような動きを踏まえて、あらためていかに想像力を持つべきか考えを聞くと、こんな答えが返ってきた。

「『気付かないうちに自分が感染を拡大させてしまうかもしれないという想像力がないからけしからん』という批判もあるかもしれませんが、そこには様々な見落としがある可能性もあります。例えば家庭内暴力などの事情から家の中が安全ではなく、やむなく外に出ている人たちもいます。他者への想像力とともに、一方的な論調にあおられない心構えも必要です」

 これもまた、想像力。密を作る集団の中の個人というディテールは、一筋縄にはいかない。神経質になるタイミングだが、分断をあおる攻撃は避けたい。

(編集部・小田健司)

AERA 2021年1月18日号