■非接触社会についていけない高齢者に慢性的な不満

 調査では「中年男性」「高齢男性」の苦情が増えた、との回答が半数近くに上った。この背景について池内教授は、自分はまだ社会で活躍できているという自負心があり、それを確認したいという欲求があると言う。

「高学歴、高所得で社会的地位が高い人は特に、自分の価値観を曲げたくない思いが強い。このタイプの人は本来、筋論(すじろん)的なクレームを発しがちで『教えてやっている』との思いから、クレームを言っている意識すらない場合もあります。コロナ禍ではこうした人も感情をコントロールできず、理不尽なクレームを発する傾向が見られます」

 池内教授がコロナ禍で留意するのは高齢者だ。高齢者の中にはレジでのちょっとした対話を生活の彩りとして楽しむ人もいる。しかし今は、「非接触」がニューノーマルに。一気に普及が広がったキャッシュレスやデジタル化についていけない高齢者も少なくない。

「スマホがないと生きていけなくなりつつある社会で、その便利さを享受できない人たちが一定数います。便利さから置いてけぼりにされている高齢の購買弱者が慢性的な不満を募らせ、自分の弱さを目の当たりにする場面に遭遇すると、どうしても一言二言、言いたくなってしまいます」(池内教授)

 社会の変化に照らせば、高齢のカスハラ加害者を「被害者」と見ることもできる、というわけだ。

 調査からは、コロナ禍の苦情が業界別に多岐にわたることも浮かんだ。

 食品業界では「レジ係はなぜ手袋を着用していないのか」「マスクをしていない客に注意をしろ」といった苦情が出た。行政サービス機関では、マスクを着けて窓口対応していると、飛沫防止板もあるため「声が聞こえづらい」と怒鳴られるケースも。ホテル業界では、感染拡大を防止するために朝食をセットメニューに変更すると文句を言われ、ビュッフェスタイルに戻すと「感染に配慮がない」と批判を浴びた。金融業界では、店内の換気能力や物品、棚などの消毒の程度が十分でない、と怒鳴られた。医療・福祉業界では「病院である以上、感染する可能性があるんだから個室に優先して入れろ」とゴリ押しに遭った……といった具合だ。

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