不満の巣窟となったコロナ禍の社会。日々の生活において何事にも適度な「距離感」が必要とされるが、自分勝手な考えで相手の心を踏みにじるケースが増えている (c)朝日新聞社
不満の巣窟となったコロナ禍の社会。日々の生活において何事にも適度な「距離感」が必要とされるが、自分勝手な考えで相手の心を踏みにじるケースが増えている (c)朝日新聞社
AERA 2021年1月18日号より
AERA 2021年1月18日号より
AERA 2021年1月18日号より
AERA 2021年1月18日号より

 高度経済成長の下支えとなった「お客様は神様」という日本的な考えが、いつしか、消費者からの理不尽なクレーム「カスタマーハラスメント」を増幅させた。企業側に必要なのは、消費者を「神様」と思わなくていい、意識の変革だ。AERA 2021年1月18日号の記事を紹介する。

【カスタマーハラスメント 五つの特徴は?】

*  *  *

 岐阜県内の20代女性はレジのアルバイトをしていたとき、客の中年男性からいきなり怒鳴られた。

「目つきが悪いお前のせいで買う気が失せた」

 頭の中が真っ白になった。謝らなければ、と咄嗟に思った。が、すぐに「別に私、悪いことはしていない」と思い直し、その場で固まってしまった。

 女性は切れ長の目をしている。そのことで見ず知らずの相手から悪意のある指摘を受けたのは初めてだった。ショックでしばらくレジに立つことができなくなった。

「化粧をしても根本的に直せるわけではないし、目元を隠そうとして下を向いていたら接客ができません。自分の努力じゃどうしようもない」

 女性は店長に相談し、その客が来店すると別のスタッフにレジを代わってもらい、品出しに回るようになった。店では別の店員もたびたび、商品の在庫がないと罵(ののし)られたり、レジのお釣りの渡し方が気に食わない客から非難を浴びたりしていた。お釣りに関しては直接客に手渡さず、レジ機の受け皿に置くよう店から指導されていた。店員の判断ではどうしようもなかった。女性はこう訴える。

「レジの仕事はどうしてもマニュアル通りの形式的な対応になりますから、ロボットを相手にしているような感情をもたれる人もいるように思います。でももちろん、レジに立っているのはみんな生身の人間なので傷つきますし、泣きたくもなります。一言『ありがとう』と言ってもらえればうれしいし励みになりますが、モノに対しているような人が多すぎるんです」

■変化するカスハラの「質」 論理的から不満発散型に

 匿名電話で受けるダメージも深刻だ。

 神奈川県の60代女性は2020年4月の緊急事態宣言の発令とともに解雇されるまで、パソコンのソフトウェアのサポート会社に勤務していた。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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