ある日、一匹の金魚に救われた。金魚が、美術の世界に僕の居場所を与えてくれた(写真/馬場岳人)
ある日、一匹の金魚に救われた。金魚が、美術の世界に僕の居場所を与えてくれた(写真/馬場岳人)
深堀が描く時、金魚の声に耳をすませ、匂いを捉え、脳内にイメージが宿るという。まるで、生まれんとする金魚に語りかけるように筆をとる。「一つ一つに個性と命を宿したい」。人々に愛でられるようにと願いを込めて。出でよ、金魚。泳げ、金魚ー!(写真/馬場岳人)
深堀が描く時、金魚の声に耳をすませ、匂いを捉え、脳内にイメージが宿るという。まるで、生まれんとする金魚に語りかけるように筆をとる。「一つ一つに個性と命を宿したい」。人々に愛でられるようにと願いを込めて。出でよ、金魚。泳げ、金魚ー!(写真/馬場岳人)
深堀が描く時、金魚の声に耳をすませ、匂いを捉え、脳内にイメージが宿るという。まるで、生まれんとする金魚に語りかけるように筆をとる。「一つ一つに個性と命を宿したい」。人々に愛でられるようにと願いを込めて。出でよ、金魚。泳げ、金魚ー!(写真/馬場岳人)
深堀が描く時、金魚の声に耳をすませ、匂いを捉え、脳内にイメージが宿るという。まるで、生まれんとする金魚に語りかけるように筆をとる。「一つ一つに個性と命を宿したい」。人々に愛でられるようにと願いを込めて。出でよ、金魚。泳げ、金魚ー!(写真/馬場岳人)

 美術作家、深堀隆介。人生を変えたのは、汚れた水の中で泳ぐボロボロになった一匹の赤い和金。自分の姿と重なった。どんな場所でも自由に泳ぐ金魚の絵を、ひとつの命を生み出すように描く。

【写真】深堀が描く時、金魚の声に耳をすませ、匂いを捉え、脳内にイメージが宿るという

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 仄暗い提灯が灯る重要文化財の芝居小屋。舞台袖の音響装置から流れるのは大衆娯楽の都々逸だ。物憂げな三味線に、艶っぽい男女の会話。

「きれいなお湯ですこと」「どうぞお入り下さい」
《風呂の中に二つの首。首より下はお湯である》夫婦の秘め事を描く「新婚箱根の一夜」の一幕だ。

 舞台上には真っ白な障子が横1列に4枚。その向こう側に立つ深堀隆介(ふかほりりゅうすけ)(47)が筆をとった。観客の目の前で作品を描く、ライブペインティングだ。

 緑豊かな山あいの湖畔に、深堀を訪ねたのは昨年7月下旬。明治時代の建築群を移築した愛知県犬山市の博物館明治村で舞台に立っていた。

 まもなく障子の上に浮かび上がったのは、つがいの金魚。長い尾ひれをたなびかせ、寝そべる男女のように寄り添う。枡席からため息が漏れる。

 金魚だけを描く作家。その名を一躍世に知らしめたのは、透明の樹脂を水に見立てた作品群だ。代表作の「金魚酒(きんぎょしゅ)」は、世の中をあっと驚かせた。手のひらに収まる酒升に本物と見紛う金魚が泳ぐ。

 深堀の技法では、器に流した樹脂の上に、直接アクリル絵の具で金魚を描く。その上に樹脂を流し、乾いたら描き、また樹脂を重ねる。数カ月から時には1年以上をかけ、平面の絵画を幾層にも重ねると、真上から見た金魚は丸みを帯びた立体に見えてくる。この積層絵画(2.5Dペインティング)の手法は深堀隆介の代名詞となった。

 愛知県名古屋市の郊外で生まれ育った深堀は、3兄弟の真ん中。人見知りで口下手だったが、人間観察や絵を描くことは好き。小学生の頃は、将来漫画家になりたいと思っていた。描いた漫画を学校に持っていくと、たちまち人気者になった。

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