これは明らかに意図的で、国民以外にも幅広い人々に向けてメッセージを発している。昭和や平成との大きな違いです。

 もっとも昨年のアエラでは、「天皇と皇后は『日本人』『国民』という範疇だけで物事をとらえていないように感じます。これも平成との違いで、メッセージにはその違いが表れるのではないかと思っています」と話しました。この点でも予想は的中したわけです。

 天皇がメッセージを出すとすれば即位1年後の5月1日が一つのタイミングではないかと話したのは、初めての緊急事態宣言の最中で、国中が緊張状態にあったからです。今回のメッセージが5月1日に出されていたら、反響はもっと大きく、天皇の言葉をありがたがる空気が生まれたと思います。が、それから8カ月もたち、事態は一層悪化しているのに、内容は当時予想したのとあまり変わらず、新鮮味が感じられませんでした。1月1日の新聞各紙も、1面で取り上げたのは読売だけ。午前7時のNHKニュースでも、トップ扱いではありませんでした。

■思いを受け取る客体

 今回インパクトがあったのは、メッセージの中身よりも、むしろ皇后が天皇と並んで映る動画の方でした。6分45秒もの間ずっと映っていて、最初と最後には肉声まで発しました。

 明治から敗戦までの勅語や詔書で使われた「臣民」は、戦後、「国民」に変わりました。現天皇の「皆さん」は、より親近感のある柔らかい表現です。さらに現皇后は「皆様」と言い換えたばかりか、短いメッセージのなかに「思いをされてきた」「お祈りいたします」「お過ごしいただきますように」と、敬語を3回も使っています。

 皇后は天皇とは異なり、皇太子妃時代からずっと療養生活を続けてきて、いまだに完治していません。ずっと国民の側が案じてきた存在です。今回のメッセージでも、天皇より皇后に注目し、「大丈夫だろうか」と心配した国民も少なくなかったと思います。皇后の度重なる敬語表現は、そうした国民に対する感謝の意味合いも伴っていたように思います。

 平成のときには、テレビ画面に映っているのは天皇だけで、皇后は奥に控えていた。ところが今回は横並びで、天皇と皇后が対等な形であることをはっきりと示した。これを「令和流」と言うこともできましょうが、より踏み込んで言えば、天皇がメッセージを発する主体であり、国民はただそれを受け取るだけの客体にすぎなかった平成までとは異なり、逆に皇后が国民からのさまざまな思いを受け取る客体となることで、皇室と国民の間に新たな関係が生まれているようにも見えるのです。

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