天皇陛下のビデオメッセージは、新年一般参賀を取りやめた代わり。「様々な理由により困難な状況に置かれている人々の身の上を案じています」と語った(写真:宮内庁提供)
天皇陛下のビデオメッセージは、新年一般参賀を取りやめた代わり。「様々な理由により困難な状況に置かれている人々の身の上を案じています」と語った(写真:宮内庁提供)
昭和天皇の詔書。1946年1月1日に発せられ、天皇の人間宣言といわれる。国立公文書館に保管されている (c)朝日新聞社
昭和天皇の詔書。1946年1月1日に発せられ、天皇の人間宣言といわれる。国立公文書館に保管されている (c)朝日新聞社

 コロナ禍で迎える新年に際し天皇、皇后が発したメッセージ。この中に見える「令和流」は何か。天皇の隣に皇后がいた意味は何か。AERA 2021年1月18日号で、天皇制を研究する政治学者、原武史さんが解説した。

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 1月1日、天皇のビデオメッセージが公表されました。私はすでに昨年のアエラ本誌(4月27日号)で、メッセージが出るものと予想し、その内容について話しました。医療従事者に対するねぎらいや、感染者らへの差別や偏見に対する懸念、そして国民どうしが助け合うことの大切さが盛り込まれたのは、予想通りでした。「皇后も一緒であれば、インパクトは倍増します」と話したのも的中しました。

 1月1日に天皇が発したメッセージとしては、敗戦の翌年に当たる1946(昭和21)年の詔書(しょうしょ)があります。昭和天皇の「人間宣言」とされるものですが、むしろ注目すべきは、戦争に打ちひしがれた国民を天皇自身が鼓舞していることです。

 具体的には「我国民ガ時艱(じかん)ニ蹶起(けっき)シ、当面ノ困苦克服ノ為ニ(中略)勇往センコトヲ希念ス」とあり、「我国民ガ其ノ公民生活ニ於テ団結シ、相倚リ相扶ケ、寛容相許スノ気風ヲ作興スルニ於テハ、能ク我至高ノ伝統ニ恥ヂザル真価ヲ発揮スルニ至ラン」と続きます。いまこそ国民が難局を克服すべく団結し、互いに助け合えば、日本人としての真価を発揮することになると言っているわけです。

■日本人の範疇ではなく

 今回のメッセージにも、「私たち人類は、これまで幾度も恐ろしい疫病や大きな自然災害に見舞われてきました。しかし、その度に、団結力と忍耐をもって、それらの試練を乗り越えてきたものと思います」とありました。そして「安心して暮らせる日が必ずや遠くない将来に来ることを信じ、皆が互いに思いやりを持って助け合い、支え合いながら、進んで行くことを心から願っています」とあるように、コロナが「試練」と認識され、互いに助け合うことの重要性が説かれています。この点は、46年元日の詔書と似ています。

 しかし他方、違いもありました。詔書には「国民」という言葉が何度も出てきます。ここには、メッセージを国民に向けて発しているという暗黙の前提があります。それは昭和天皇に限らず、2016(平成28)年8月に出された現上皇のビデオメッセージでもそうでした。

 ところが、今回のメッセージに「国民」という表現は1回しか出てきません。それも「国民の皆さん」という言い方でした。代わりに「皆さん」が9回、「私たち」と「方」が5回、「人々」が4回、「方々」が3回、「皆」と「人類」が1回でした。あとは皇后が「皆様」という言葉を2回使っています。

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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