■物語の一部になれる

 BTSとARMYの関係性やこれまでの歩みを見て、まるで、少年漫画のようだと感じた。正義感にあふれ、仲間思いのカリスマ性のある主人公と、その意に賛同し帯同する仲間たちが、様々な敵に立ち向かいながら旅をする冒険物語。

 主人公は物語の中で鍛錬を積みながら、人間的に成長していく。強くなるのは主人公だけではない。仲間たちも主人公に刺激を受け、強くなっていく。彼らが強くなればなるほど、大きな敵が現れるが、彼らは仲間との絆を深めながら自分たちなりのゴールを目指す。

「BTSとARMYの物語」は、そんな少年漫画によく似ている。主人公はもちろんBTS。そして仲間はARMY。彼らが立ち向かう敵は、人種差別や社会的偏見、社会の矛盾、若者たちへの抑圧、コロナ、そして自分自身だったりする。それは、時と環境、個々人が直面する問題によって違う。

 ARMYはBTSを信じ様々な武器を使いながら、それぞれの敵に立ち向かっていく。彼らの物語は、決して他人事ではない。誰もがいつでもその一員となって、物語の一部になることができる。ARMYは、この壮大な物語に自分たちが入り込んでいることにきっと気づいているのではないか。そして、登場人物の一人でいることを楽しんでいる。

 20年11月、「BTSとARMYの物語」に、新たな一ページが加わった。アルバム「MAP OF THE SOUL:7」が、昨年の全米最高売上枚数を記録し、BTSがグラミー賞の最優秀ポップ・デュオ賞(グループパフォーマンス部門)にノミネートされたのだ。受賞すればアジアのアイドルグループで初の快挙。アジア勢がこれまで全く相手にされなかった、世界のポップス界の頂に立つ。

 今年も、BTSはまたARMYとともに世界を動かしてくれることだろう。グラミー賞授賞式は、2月1日(日本時間)だ。(ライター・酒井美絵子)

AERA 2021年1月11日号