■一人で責任取らされた

 そもそも、政治家秘書の仕事は、はなからストレスフルだ。先に触れた舟木さんの博士論文では、国会議員秘書を対象に行ったストレスに関するアンケートの結果が示されている。それによると、議員会館勤務の秘書の22.9%、地元事務所勤務の秘書の24.7%で高ストレス者を抽出したという。

「一般的には10%程度となりますので、いかに議員秘書という職業が他の職業と比較してストレスが高い職種であるかが分かると思います」(同)

 もちろん、不祥事に直面して泥をかぶるというのは頻繁に起きることではないかもしれない。しかし、議員との人間関係に日頃から悩みを抱えている秘書が多い状況を踏まえると、「一人で責任を取らされた」という感情がどんな事態を引き起こすかは注意が必要だ。

 12月24日夕、安倍氏は平河クラブの記者だけを集めて経緯を説明。言葉の端々からは責任逃れの意図がにじみ出た。

「私が知らない中で行われていたこととはいえ」
「責任者に任せていたということであります」

 責任は感じる、とも話した。しかし、「取る」ものではないとでも考えているかのようだ。

 こうした議員の責任逃れは、決して日本だけの伝統芸ではないようだ。

 早稲田大学の中林美恵子教授(米国政治)は、02年4月までの約10年間、米国で共和党上院議員の補佐官を務めた。仕組みの違いがあるため、いわゆる日本の「政治家秘書」とは少し違うが、国家公務員として議員の公務を支えた。

■海外と日本の「責任感」

 米国でも秘書だけに責任を負わせることはあるのだろうか。

「もちろんあります。ただ、何から何まで秘書が、ということはありませんから、最終的には議員の責任が問われます。責任を取らなければ、結局は有権者が選挙で判断することになりますが、米国の有権者は日本よりシビアな判断をしていると思います」

 日本での国会議員経験もある中林教授。責任逃れが横行する理由の一つに、日本独特の議院内閣制があると考える。

「当選回数主義が影響し、議員の座にしがみつかないと行政府で行政の権限を実行することができないため、逃げられるだけ逃げようとする人は出てきます。それを制度的にうやむやにできないようにするにはどうするかという点で知恵を絞るのが、成熟した民主主義国家に課せられた責務です」

 責務を果たすかどうか。決めるのは政治家ではなく、国民だ。(編集部・小田健司)

AERA 2021年1月11日号