「いざ事務所をやめたとしても国会議員がそこで後援会の関係の企業などに一声かければ、転職できるわけです。採用する会社の方も、ペラペラ過去のことを話す秘書よりは、泥をかぶって議員を守り抜いた人を評価するのではないでしょうか」

 政治の世界に限らない、一般的な「秘書」ではどうか。

 企業の秘書を研究対象とする本学園大学の徳永彩子准教授によれば、民間企業で秘書になる人に求められる資質は、先を予測する力、臨機応変に対応する力、冷静さ、だという。

■秘書側に「変化」の兆し

 関係を築くうえでは、「ボスの一番のファンになって最大のサポーターになること」(徳永准教授)とも話す。政治家の秘書とも変わらないように思えるが、大きな違いもあるようだ。こう続ける。

「ボスの不法行為の責任のかぶり方や、ボスを守るために自分の責任で不法行為を行うことについては、テーマになり得ません。企業に勤める秘書の場合、そうした行為がメリットになることはなく、考えにくい状況だからです」

 ただ、前出の国会議員秘書は時の流れとともに政治家の秘書側の変化も感じるようだ。

「最近の秘書で、仕事を始めるときに泥をかぶることまで想定している人は少ないんじゃないでしょうか」

 筑波大学発のベンチャー企業、メンタルシンクタンク副社長でカウンセラーの舟木彩乃さんも、過去に国会議員の秘書経験がある。筑波大での博士論文でも国会議員秘書のストレスをテーマにしており、議員と秘書の関係の変化について、こう感じているという。

「昔は議員の先生を慕ってついていくという雰囲気がありました。『先生に一生面倒をみてもらうので、何かあったときは秘書が泥をかぶるという文化も許されていたのでしょうね』と話してくれた古参の秘書もいました。そんな関係が変わったのは、昔と比べて魅力的な議員が極めて少なくなったからだと思います。今も議員を守る秘書はいますが、古い方にしかいないでしょうね」

 舟木さんが「大きく潮目が変わった」と感じたのは2017年に元自民党国会議員の豊田真由子氏による秘書へのパワハラが発覚したときだったという。政策担当秘書だった男性に対する衝撃的な暴言や暴行が注目された。

「結局、秘書を守る仕組みがないから自分で自分を守るしかなく、時には過剰防衛になるのかもしれません」(舟木さん)

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