こうした加藤さんの取り組みを知ったスカイマークがシールの制作を依頼。同社はマスクを着けられない人には搭乗前に理由を申告してもらい、病気などでやむを得ない場合は大きな声での会話を控えることなどを求めた上で搭乗を認めている。ただ、乗務員や周囲の搭乗客にも周知してもらう必要があると考えたという。

 CS推進室の戸田健太郎室長(52)は「触覚過敏などでマスクを着けられないお客様にも安心して空の旅を楽しんでもらいたくてシールの配布を始めました。加藤さんに依頼したのは感覚過敏の人が暮らしやすい社会を目指すミッションに賛同したからです」と打ち明ける。

 加藤さんは、感覚過敏の人もマスク装着の努力をしている人は多い、と強調する。

「痛みや不快さを感じないマスク素材を探したり、装着時間を少しずつ長くして肌になじませたりすることで、最初は数分しか着けられなかったのに1時間着けられるようになったという人もいます。シールなどは努力してもマスクを着けられない人のやむにやまれぬ選択肢として活用してもらっています」

■社会の許容度を上げる

 感覚過敏のほかにも、皮膚の病気や呼吸器の病気などさまざまな原因でマスクを着けるのが困難な人もいる。しかし、コロナ禍でマスクを着けていない人は批判の標的にされやすい。「どんぐり発達クリニック」(東京都世田谷区)の宮尾益知院長は、代用品も許容すべき、と提言する。

「感染対策としては口から飛沫が飛ばなければいいわけで、例えばマフラーを口元に巻くのも有効です。杓子定規にマスクでないといけないというのではなく、口元を覆ったり押さえたりできる代用品があればいい、というぐらいに社会の許容度を上げる必要があります」

 加藤さんの母・咲都美(さとみ)さん(45)はこう訴える。

「感染したくないという恐怖心は私もあるので、マスクを着けていない人を見て不安になる気持ちはわかります。でも一方で、どんなに努力しても着けられない人がいて、その人たちも懸命に感染防止に向き合っていることを知ってもらいたい」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2021年1月11日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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