報道によれば、政府が「皇女」と想定しているのは内親王で、眞子さま佳子さま(26)、愛子さま(19)に加え、黒田清子さん(51)も含まれるという。それぞれのお気持ちを思うとき、参考になるのが清子さんの著書『ひと日を重ねて 紀宮さま御歌とお言葉集』。そこには、皇族としての務めを大切に考える「働く女性」の懸命な姿がある。そういう真面目さを、政府はきっと見越している。

 その一方で、時代を思う。清子さんの生まれた昭和は、男子優先が当たり前だった。眞子さま、佳子さま、愛子さまが生まれたのは平成。男女の区別なく、自分を大切にする。そんな社会を模索したのが平成だったろう。

 佳子さまは19年、眞子さまの結婚について尋ねられ、「私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています。ですので、姉の一個人としての希望がかなう形になってほしいと思っています」と文書で答えている。そう、佳子さまの表現を借りるなら、「一個人」の時代。女性皇族も、そこに生きている。

■「ここではない、どこか」

 佳子さまは幼少期にはアイススケート、長じてはダンスと「天皇家らしからぬ」ことを選んできた。率直な記者会見での回答からも、強い女性だと拝察している。そんな佳子さまだから、眞子さまの心をあのときすでに代弁していたのだと思う。

 その心とはつまり、眞子さまの「お気持ち」文書に表れた小室さんへの愛。そしてもう一つ、「ここではない、どこか」を求める強い気持ちだと思う。誰もがもつ、人を成長させる感情。眞子さまにとって、そのための唯一の手段が結婚。だから、ますます駆り立てられる。文書を読み、そう思った。

 あれこれ考えていくと、「男系男子による皇位継承」に行きついてしまう。皇室における女性は、生まれたときから「男性でない」存在だ。そういう場所に、平成生まれの女性皇族がいるという現実。一般論だが、「ここではない、どこか」への渇望の前提には、「今いる場所」への違和感がある。そんなふうに思う。

 最後に、三浦しをんさんの話をもう一度。政治学者・原武史さんとの共著『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』で、眞子さまの結婚について語っている。なぜ男性の経済力だけが問題になるのかと聞き、こう語る。

「内親王の結婚は『専業主婦になること』を基本的な前提としているのかなと。『売れないロックミュージシャンと結婚したい内親王』とかが出てきたら、どうするんでしょうか」

 三浦さんは女性皇族を、「同性の一人」としてとらえている。働き、人を好きになり、結婚をする。そういう当たり前な人として、眞子さまも応援する。そんな三浦さんは「少数派」ではないということを、菅首相にテイクノートしてほしいと思う。「皇女」ありきではなく、「一個人」としての女性皇族を念頭に、生き方と制度を検討してほしい。

 21年12月、愛子さまは二十歳になる。成年皇族としての愛子さまが、良き日々を過ごせる。そういう議論が進むことを願ってやまない。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2021年1月11日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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