身なりから、通りすがりの人に汚いものでも見るような目で見られることだという。男性は、長い髪を束ね無精ひげを伸ばし、着られるだけの服を重ね、踵(かかと)が潰れた靴を履いている。

「(視線には)慣れないね」

 と、うつむき気味に話す。

 今ほしいものを聞くと、「お金」と即答した。誰かのために働く必要はないが、生活のためにはお金がいる。以前はアルミ缶拾いでわずかな収入を得ていたが、新型コロナウイルスの影響でそれもできなくなった。

 コロナを巡る経済対策として、特別定額給付金が1人当たり一律10万円支給されたが、男性はもらわなかった。どうせもらえないと、最初からあきらめていたという。給付金は基準日の4月27日時点で住民登録のある人が対象だった。ホームレスの人でもどこかに住民登録があれば申請書を取り寄せて手続きできたが、男性の住民票はまだ家にある。家族とは家を出てから音信不通のままだ。5年ほど前に一度、自宅の近くまで行ったが、何もできなかったと話す。

「子どもには会いたいけど、どの面(つら)下げて会えばいいのか」

(編集部・野村昌二)

AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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