上野公園の一角の周りに置かれた、カラーコーンとバー。近くで寝泊まりしているホームレスの男性(50代)は、「いやがらせだよ」と吐き捨てた(撮影/野村昌二)
上野公園の一角の周りに置かれた、カラーコーンとバー。近くで寝泊まりしているホームレスの男性(50代)は、「いやがらせだよ」と吐き捨てた(撮影/野村昌二)

 2014年刊行の柳美里さんの小説『JR上野駅公園口』が、全米図書賞を受賞した。コロナ禍での師走、そこはどうなっているのか。実際に歩いてみた。AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号の記事を紹介する。

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 11月に全米図書賞の翻訳文学部門を受賞した柳美里(ゆう みり)さんの小説『JR上野駅公園口』は、東京都台東区にある上野公園でホームレスとして暮らす男性の生涯を通して、社会のひずみを描いた。

 主人公は、昭和8(1933)年に福島県相馬郡(今の南相馬市)で生まれたカズさん。極貧の生活の中、家族を養うため30歳で東京に出稼ぎで上京する。60歳で一度故郷に戻るが、妻に先立たれ人生に絶望。7年後に死に場所を探して再び上京し、上野公園でホームレスになる。公園には500人近いホームレスの人たちがいて、経済成長の陰に埋もれるように生きている──。

 時は流れ、令和の時代。

 カズさんがいた上野公園は今、どうなっているのか。師走の上野公園を歩いた。

「もう長いですよ」

 何人かに声をかけ、応じてくれたのが、公園のベンチで小説を読んでいた男性(55)だった。10年近く上野でホームレスをしているという。

■通りすがりの人の視線

 千葉県の出身で、高校を出ると地元で建築関係の職場で働いた。20代で結婚。子どもも生まれ、家族のために懸命に働いた。しかし、自分の不倫が原因で夫婦仲は悪化し、45歳の時に何もかも嫌になって家を出た。上野でホームレスになったのは「何となく」だという。

 昼間は、拾った本を読んでいるか寝ているか。夜は上野駅周辺の歩道橋の下など雨が降っても大丈夫な場所で、段ボールを敷いて寝る。食事は、民間の支援団体からの配給やコンビニなどの廃棄食品があるから困らない。お酒も時々、飲むという。自分勝手に生きているがつらい思いもすると話す。

「一番つらいのは、そういう目で見られること」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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