「U・Iターンでの移住者が新規で農業を始めるにあたり、栽培技術の習得や、農地、販路、住宅の確保等の様々なハードルがありますが、最も大変なのが所得の確保です」

 島根県は今年3月末時点で、74人を「半農半X実践者」に認定、うち68人が現在も県内各地で半農半Xに取り組む。実践者の家族を含めると、これまでに119人が島根県に移住、定住している。田中課長は言う。

「これまでは農業の担い手を育成する産業振興的視点と、半農半Xなどの移住定住に重きを置く地域振興的視点の両輪を支援してきたが、その両輪の間にある、すぐには担い手になれないが、将来的に担い手になるような定年帰農者などの育成支援もしていきたい」

 ただ、課題もある。県による実践者へのアンケートによれば、移住前に比べ生活の幸福感は格段に上がっている半面、所得面の満足度は低い。半農半X実践者68人のうち、X部分の最多は新聞配達やホームセンターなどで働く「半農半サービス」で、農業法人などに勤務する「半農半農雇用」が続く。

「X部分は本人のやりたいことが中心になりますが、地域の実情に合わせた支援も行っています」(田中課長)

 その一つが「半農半蔵人」だ。酒造りを支える蔵人は、冬場に仕事の少ない農業者にとっては最適で、酒蔵も繁忙期の季節雇用者が確保できる。島根県では、県内の酒造会社に声をかけ、季節労働者の求人を集約。半農半蔵人を募集している。冒頭の沼田さんも、それに応募した一人だ。

「例えばお米を作るために必要な農機具を揃えようとすれば、2千万円近くの設備投資が必要になります。栽培技術もなく、農業収入が見込めないなかでの新規就農は難しい。所得を補填する仕組みがあれば、農家として独立を目指すこともできます」

 沼田さんは半農半Xの実践者として2年間、助成金をもらいながら生計を立て、その後は農家としての独立を目指し、国の「農業次世代人材投資資金」(以下、人材資金)を受給している。

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