1976年生まれの44歳。自身も就職氷河期世代だ。
「小説を書くときに同世代が抱える不遇感のようなものをよく入れ込みます。バブル崩壊後の世界に放り出された人間の『世をひがむ感じ』は、やっぱり私の中にあるんです」
戦後より豊かになったはずなのに「自分も享受できたはずのものを奪われた」という同世代の「貧困感」は根深い。だが金があれば人はしあわせになれるのか? 朝比奈ハルは我々に考えさせる。
「人の幸福はどこに発生するのか? それはお金や自由と本当に関係があるのか?──それが伝えたかったテーマのひとつです。作品から立ち上がってくるものを感じていただければ嬉しいです」
(フリーランス記者・中村千晶)
■八重洲ブックセンターの川原敏治さんオススメの一冊
『築地本願寺の経営学 ビジネスマン僧侶にまなぶ常識を超えるマーケティング』は、伝統ある寺院の“ブラッシュアップ術”を学べる内容の濃い一冊。八重洲ブックセンターの川原敏治さんは、同著の魅力を次のように寄せる。
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さまざまな経歴を持ち、50代で僧籍を取得したビジネスマン僧侶による、400年の歴史を持つ築地本願寺の経営改革を紹介。終活などをサポートするコンシェルジュサービス、オンライン法要、結婚相談など、仏教とビジネスを融合させた斬新な事例が多く取り上げられている。
寺院も伝統に縛られ変われないままでは生き残れず、時代に合わせてブラッシュアップする必要があり、働き方改革やデジタル化が必要になってきていることなど、一般企業と相違はなく参考になる点が多い。
その一方、コロナ禍で社会不安が大きくなる中、根幹としての仏教の教えをどう伝えていくのか、社会的役割は何か、宗教法人ならではのビジネスとのバランスや時代に合わせていく困難も感じられる。改めて改革することの難しさを考えさせられる一冊。
※AERA 2020年12月21日号