「非正規の期間が長くても、就業支援機関などで基本的なビジネスマナーやコミュニケーション能力を身につけている人もいます。苦労も含めて多様な経験がある。企業の多様性を考えたうえでも採用にメリットはあります」

 ロスジェネの支援には、採用側への働きかけが重要だと考えている。旗を振る国側の働きかけには期待しているものの、まだまだ「不十分」と感じているという。

 ロスジェネ問題に詳しい東京大学の本田由紀教授(教育社会学)は、さらなる影響を危惧する。

「コロナがいつまで続くのか、どれくらい猛威を振るうのかなど、不確実性が高くなれば積極的な採用はしにくいはずです。そのような時代では、長い間、非正規をしていたり、無業を続けていたりする人は、企業側からみれば最も採用に消極的になる人たちです」

■大卒正規雇用にも見られる職場でのスキルのくぼみ

 ただ、本田教授は、そもそも無職や非正規雇用の労働者が多いのは、ロスジェネ世代に限った問題ではないため、昨年来示されている政府の方針もどこか筋違いだと感じるという。

 ロスジェネ問題の本質とは何か。

 経済産業省が実施した調査データを本田教授が分析した結果で、氷河期世代で特徴的なのは、中でも特に大卒の正規雇用で働く男性で、職場で求められている業務スキルの水準が低くなっていることだという。

「学生側の売り手市場であればあまり就職しないような会社や業種でも、当時は就職せざるを得ない時代でした。それらの職場で、たいしたスキルも身につけられないという状況が、氷河期世代で顕著に出ています。前後の世代には見当たらないスキルの“くぼみ”のようなものが出ています」

 茨城県に住む男性(45)は、都内の私立大学を卒業した後、金融機関に勤めた。日本の歴史に関心があり、本当は「研究施設で正規雇用で研究をしたかった」というが、夢はかなわなかった。次に考えたいくつかの「士業」も費用を理由に諦めた。

 数年勤めた金融機関では簿記の知識を少しは身につけたが、若い人材に期待されたのは、預金集めと融資先の確保だった。その後、十数年間にわたって地元の市役所で非常勤職員として税金関係の仕事に携わり、昨春、雇い止めにあった。実地で身につけた知識もあるが、それ以上のステップはない。

 今秋、市役所勤務時の経験を生かして東京都の氷河期世代向けの採用に応募したが、だめだった。

「身につけたスキルといっても、それが何で、どのように評価されるかもよくわかりません」

 本人の能力や努力にかかわらない「時代が生んだ不遇」をなんとかしなければならない。(編集部・小田健司)

AERA 2020年12月21日号