「男性のほうが、過去や自分が成し遂げたこと、持っているものにしがみつく傾向があるように思えます。特に年嵩の男性は、過去にしがみついてしまうような。女性の方が勇敢ですよね。女性は新しい経験を勇敢に求めていく。新しいチャンスを掴んで未来に目を向けて考えていこうとするのではないでしょうか」

 映画が完成するまで7年。

「イスラエルでは一般的なのですが、今回はパーソナルなプロジェクトだったので、良質な作品をつくりたいとかなりこだわりました。お金がない場合、何を費やせるかといえば時間です。脚本では、悲劇と喜劇のバランスを取るのに時間をかけました。みなさんに楽しんでもらえたら」

◎「声優夫婦の甘くない生活」
二人の第二の人生のゆくえは──。12月18日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「希望のかなた」

「声優夫婦の甘くない生活」を観て、だれかの映画に似ているなと思っていたが、ルーマン監督がアキ・カウリスマキ監督を好きだと聞いて納得した。「映画を発見した時から大きな影響を与えてくれている作家」なのだと言う。

「カウリスマキ監督は悲しい現実というものをどこか不条理な笑いをもって表現する。リアリズムと抑制の利いた映画的なもののバランスのスタイルを持っている。僕も今回彼の世界観をお借りしているところがあるんじゃないかな。もちろんコピーしているわけじゃないんだけどね」

 そんなカウリスマキ作品の中で現在入手できるのが、「希望のかなた」だ。

 主人公は内戦が激化する故郷シリアを逃れ、フィンランドの首都ヘルシンキに流れ着いた青年カーリド。彼の唯一の望みは生き別れた妹を捜し出すことだ。しかし、ヘルシンキでも暴力や差別にさらされ苦労の連続。そんな彼にレストランのオーナー、ヴィクストロムが救いの手を差し伸べるのだが……。

 どんなに不幸なことが重なっても、カウリスマキ作品を観ていると生きているだけでいいと思える。生きていることが楽になる映画だ。

◎「希望のかなた」
発売・販売元:松竹
価格3800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2020年12月21日号