だからこそ、機体損傷のリスクを負ってまで2度目の着陸を敢行する必要はない、との声も上がったというわけだ。

■小惑星内部の物質採取

 チームは一つひとつの岩の高さと形を10センチ単位で再現した3次元地図を作り、姿勢を制御する12基の化学エンジンの癖も調べて誘導プログラムに教え込んだ上で、19年7月11日、衝突装置が穿ったクレーター周辺に飛散したリュウグウの地下物質めがけて2回目の着陸を行い、無事成功させた。

「まさに神わざでした」

 こう感嘆する荒川さんは、地下サンプルの回収というミッションをクリアしたと見込まれることで、「付加価値が高まった」と評価する。

「小惑星の表面の物質に関しては、米探査機がはやぶさ2とケタ違いの量の回収を進めています。私たちは衝突装置を使って地下のサンプルを採取するという米探査機もできなかったことを実現した可能性が高い。日本の惑星探査の優位性を世界に知らしめることができました」

 小惑星の表面から深さ約10センチまでの地層は太陽放射や太陽風による影響を受けているという。今回人工的に作ったクレーターの深さはそれを上回る1.7メートルだ。

「太陽放射や太陽風の影響を受けず、より純粋に46億年前の情報を保持している物質のサンプルを取得できた可能性があります。表面と地下の物質を比較することで宇宙風化の影響などを知る手がかりも得られるでしょう」(荒川さん)

(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年12月21日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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