しかし、最低賃金引き上げや学費の無料化など、若者が窮状の中で求めている社会民主主義的な政策の実現に向けて、穏健派と専門性が高いテクノクラートで固めるバイデン氏のホワイトハウスができることには限界がある。若い有権者らが、少し時間がたてば、バイデン政権を批判し始めるのは目に見えている。

■最も弱い大統領の危惧

 民主党の進歩派は、長年主流派である穏健派に対し、多数派には達しないものの勢いを増している。ジョー・ケネディ3世下院議員(マサチューセッツ州、民主党)は、ジョン・F・ケネディ元大統領の弟の孫に当たる名家の出身だが、今年のマサチューセッツ州の上院議員予備選挙に臨み、進歩派の若者が支持したエドワード・マーキー現職議員に敗北した。一時は、進歩派の世襲政治一家だったケネディ一家の出身者が立候補して敗北したのは彼が初めてだ。

 ケネディ氏は12月9日、下院を去る際の短い演説で、失望を隠さなかった。

「助けや保護、正義やチャンスが真に必要な人にとって、政府は、資金も時間も気力さえもないと言い続けてきた」とし、政府に資力がないのは、「私たちの時代の大きな嘘」と批判した。進歩派的な発言ではあるが、今回の選挙で投票所に向かった若者たちは、彼以上の葛藤を抱え、ケネディ一家の遺産よりもさらに進歩派寄りの政策を求めている。

「ジミー・カーター元大統領以来、最も弱い新大統領になるだろう」

 こう予言するのは、国際政治学者でコンサルティング会社ユーラシア・グループ社長、イアン・ブレマー氏だ。上院の過半数を取る可能性が低いことと、連邦最高裁判所の9人の判事構成が、保守派が6人とスーパーマジョリティーを得ていることをその理由に挙げる。

 若者や黒人、女性など米社会のマイノリティーが、コロナ禍でも必死に投票所に向かい、バイデン氏を勝利させた。だが、米国の政治の仕組みや、バイデン氏をはじめとした旧世代の穏健派が実現を目指す政策は、若者らの期待に応えることになるのか。大きな試練となりそうだ。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2020年12月21日号