関西学院大学副学長 冨田宏治(とみだ・こうじ)/1959年生まれ。同大法学部助教授を経て、99年から教授。学生活動支援機構長も兼務。専門は日本政治思想史(写真:関西学院大学提供)
関西学院大学副学長 冨田宏治(とみだ・こうじ)/1959年生まれ。同大法学部助教授を経て、99年から教授。学生活動支援機構長も兼務。専門は日本政治思想史(写真:関西学院大学提供)

 学費を自分で稼ぐ学生たちを救いたい――。そんな気持ちから関西学院大学が独自の奨学金を創設した。冨田宏治副学長が語った。AERA 2020年12月14日号から。

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 コロナ禍で、私立大学の中には学生全員に数万円を一律支給する動きもありましたが、本学では深刻な議論の末、本当に困っている学生に手厚い支援をするため、2種類の奨学金を創設しました。

「特別支給2020奨学金」は、保護者の収入がコロナの影響で2割以上減少した学生に対し、40万円を上限に学費の2分の1を給付型で支給します。「関学HECS型貸与奨学金」は学生自身のアルバイト収入が減少し、生活に困る事態を想定して設置しました。年間授業料の上限(75万~125万円程度)に達するまで何度でも借りられます。

 HECSとはオーストラリアで普及している学費の後払い制度です。多くの奨学金は卒業後すぐに返済が始まるのに対し、関学HECS型は給与所得者なら年収が400万円、自営業者であれば年間所得が150万円に達するまで返済を猶予します。返済のプレッシャーで借り入れを躊躇する学生に配慮し、安心して借りられる仕組みにしたつもりです。

「特別支給2020」は6月以降4回募集し、合計830人に総額3億1674万円超を支給しました。HECS型も4回募集し、延べ231人に対し総額1億4千万円を貸し付けています。冬のボーナス減で苦境に陥る親御さんはこれからさらに増えるでしょう。学生アルバイトも夏以降、一時的な戻りはあったようですが、感染の第3波で再び打撃を受けるのは必至です。そのため、「特別支給2020」も「HECS型」も年明けに改めて募集をする予定です。我々が用意した10億円の予算では足りないかもしれません。しかし、予算を超えてでも「経済苦境を理由にした退学者は出さない」を合言葉に、困っている学生への徹底支援を継続します。

 HECS型の申請受け付けで想定外だったことがあります。家賃や食費に困る学生が月々数万円を借りると見込んでいたのですが、実際には半数を超える学生が、いきなり上限である学費相当額まで借り入れたのです。親に頼れず、自らのアルバイト収入で学費も生活費も負担している学生が相当数いることが、図らずも明らかになりました。親の収入を支給要件とする従来型の奨学金制度では、こうした学生を救えません。学生自身の収入を支給要件としたり、返済に猶予を持たせるHECSのような仕組みを拡充したりするなど国全体で奨学金のあり方を見直すべき時が来ています。

AERA 2020年12月14日号