「とにかく肉体改造をしました。食事の面では、シングルだと体重が増えないように制限するのですが、食べて食べて筋肉をつけてという感じで。食事改善して、筋トレして、肉体改造していくことで、やっとリフトができました」

 コーチのズエワも、「大輔の身体はゴージャス」というほど、ウエストは引き締まり、肩や背中に筋肉がついた。そして、コロナ禍のなか2カ月間のリンク閉鎖もあり、実質半年ちょっとしか練習できないまま11月27日からのNHK杯を迎えた。

 初日のリズムダンスは、映画「The Mask」。高橋は黄色いズボンにサスペンダーというジム・キャリーに扮した姿で登場した。コミカルで元気のいい音楽に合わせ、課題のステップ、リフト、ツイズルなど新たな技を次々とこなし、上々の滑り出し。最後まで自然と笑顔がこぼれるような演技だった。

■シングルとは全く違う

「初めてということを考えると、すごく上出来だったんじゃないかな、と思いたいです」

 と高橋。村元も、

「今日の大ちゃんは100点です。本当にシングルとは全く違う競技なのに、2月に始めたばかりで、デビュー戦で落ち着いて滑れたので!」

 と高評価を出した。ただ、初めての本番で課題も感じた。

「疲れ方は、以前とは違いますね。シングルはジャンプで瞬発力を使うので、後半の疲労のなかでどう跳ぶかが問われます。アイスダンスは2人のタイミングで動くので、疲れているなかでタイミングを合わせるのが難しいところだと感じました」

 64.15点での2位発進は、デビュー戦としては十分な評価だ。

 翌日のフリーダンスは、曲想ががらりと変わり、バレエ曲「ラ・バヤデール」。ゆったりとしたメロディーに合わせて2人が優雅に舞う。高橋にとっては、ポジションを一つ一つ確かめながら動くことができる、戦略的な選曲だ。高橋が片足で滑るリフトや、次々と持ち手を変えるリフトなどを成功させた。しかし小さなミスが重なり、徐々に高橋は緊張していく。

「お互いのエッジが当たって『あっ』となったり、リフトを降ろした後の1歩目のタイミングが合わなかったり、普段しないミスがあって、ちょっとびっくりしました」

 すると演技後半の大技ツイズルで、高橋はバランスを崩して両手をつき、転倒扱いに。ステップの高橋とまで言われた彼がよろける姿に、会場からは悲鳴のような声が漏れた。

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