リズムダンスに高橋は黄色いズボンとサスペンダーで登場。華麗なステップで会場を沸かせた (c)朝日新聞社
リズムダンスに高橋は黄色いズボンとサスペンダーで登場。華麗なステップで会場を沸かせた (c)朝日新聞社
フリーダンスではゆったりした曲調で優雅な舞を見せた。途中でバランスを崩し、課題も見つかった (c)朝日新聞社
フリーダンスではゆったりした曲調で優雅な舞を見せた。途中でバランスを崩し、課題も見つかった (c)朝日新聞社

 高橋大輔がアイスダンスでNHK杯に帰ってきた。シングルの五輪メダリストの情熱的な演技に多くの人が魅了されてきた。AERA 2020年12月14日号では、新たな挑戦でどんな進化を見せる高橋大輔の今を取材した。

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 高橋大輔(34)と村元哉中(27)の2人が手を繋いで氷上に降り立ち、信頼しあったまなざしで見つめ合う。コロナ禍に集まったファンは“声援”を我慢して、心からの拍手で出迎えた。高橋は、シングル時代を彷彿とさせるステップが光る一方、筋肉質に変化した身体で力強いリフトを見せる。そして慣れない技につまずき手をつく場面も……。次々と現れる“新しい大ちゃん”に、誰もが虜になった。

 高橋は、2010年バンクーバー五輪で日本男子初の銅メダルを獲得し14年に引退。18年に復帰を果たすと、今季からはアイスダンスへの転向を決意した。

「できるだけ長くスケートをして表現をしたいと思った時に、スケートの可能性はまだある、いろいろなことを表現するのには人と組む必要性がある、と感じました」

■食べて筋肉をつける

 すべてが異例である。20代半ばがピークとされる競技で、34歳から、全く違う技能が求められるカテゴリーに挑む。しかも1年半後の北京五輪を目指すなど、常識外という声も聞こえた。

 2月にフロリダに渡った高橋は、村元とともに練習を開始。コーチは、3度の五輪王者を育てた巨匠マリーナ・ズエワだ。まず取り組むべきことは、アイスダンスらしい滑りの基礎と、独特の技の習得だった。

「マリーナから毎日、耳にタコができるくらい言われるのは、つま先まできっちり脚を伸ばすこと。蹴った後のフリーレッグの膝が、シングルスケーターは曲がってしまい、甘い部分があるんです」

 様式美を重んじるアイスダンスでは、自己流に格好良く踊ればいいのではなく、脚はこの角度、この高さ、このタイミング、などが細かく決められている。感性で踊れる高橋にとっては、まるで足かせをはめられるような作業だったことだろう。

 またアイスダンス独特の技も多い。カップル結成当初から指摘されていたのは、リフトの大変さだ。シングルには必要ない上半身の筋力が必須となる。

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