WHOは、いずれの臨床試験でも、死亡率の低下や、人工呼吸器やECMOが必要となる割合の低下、回復までの日数の短縮といった効果があると判断できるだけの十分な根拠がないとした。ただ、「効果がない」と結論づける根拠も十分にはなく、臨床試験を続けるべきという。

 WHOのガイドライン改定の背景を、藤田医科大学感染症科の土井洋平教授はこうみる。

「レムデシビルは比較的高価で、しかも通常、点滴で5日間、投与する。先進国では可能でも、医療資源の限られている国では難しい。WHOの判断は、感染者がすでに6千万人以上にのぼる感染症の治療薬として、死亡率低下といった効果が今のところ確認されていない薬を、途上国が多い加盟国に一律に推奨はできないということではないか」

 レムデシビルを製造販売する米ギリアド・サイエンシズによると、レムデシビルの薬価は、標準的に5日間で6瓶分投与する場合、先進国では2340ドル(約24万3千円)になる。

■投与方針は変更しない

 同社は、WHOのガイドライン改定に反論する。

「WHO主導の臨床試験は当初、途上国など新薬の臨床試験があまり実施されない国でも新薬候補が入手できるようにするために計画され、実施された。より科学的に厳密に実施されたNIH主導の臨床試験では、全体的に回復の早さが証明された。それだけでなく、流量の低い酸素補給でも足りる患者に限定して分析すれば、死亡率低下の傾向もみられた」

 厚生労働省の「診療の手引き」は、中等症患者で急速に状態が悪化しそうな場合、まずステロイド剤を投与し、その上でレムデシビルの投与も考慮するとしている。WHOのガイドライン改定の影響について厚労省は、

「今のところ投与方針を変更する予定はない」

 としている。

 もともと、国内のレムデシビルの供給量は限定的で、しかもレムデシビルの効果が期待できる患者も比較的、限られる。

 重症化するのはウイルスそのものが原因の場合と、ウイルスを攻撃しようとする体内の免疫反応が過剰になって自らの肺や組織を損傷してしまう場合がある。レムデシビルは主にウイルスの増殖を抑える薬なので、ウイルスが原因の場合なら効果が期待できる。しかし、免疫の過剰反応による重症化の場合は、それほど効果を期待できない。

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