立体イラスト・kucci/写真部・張溢文
立体イラスト・kucci/写真部・張溢文

 新型コロナウイルスの影響により、企業の減収やボーナスカットが相次いでいる。厚生労働省の調査によると実質賃金は7カ月連続で減少した。収入減は住居費を直撃している。AERA 2020年12月14日号の特集「住居喪失」から。

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「売るしかないのでしょうか?」

 今年9月、マンションの売買の相談に専門家のもとを訪れた40代の夫婦はそう嘆いた。

 夫婦は9年前、都心の6千万円の新築タワーマンションを、ほぼ満額分のペアローンを組んで購入した。

「最初の4年は問題なく返済できていました」

 月額返済は約17万円だったが、当初は夫婦合わせた世帯実収入が月60万円以上あり、返済してもゆとりがあった。

 だが、子どもの中学受験をきっかけに、バランスが崩れた。妻は一度退職し、専業主婦になって受験をサポートした。その後、派遣社員として仕事に復帰し、収入は回復していた。そこへコロナ禍が襲い、3月、雇い止めにあったのだ。想定外だった。

「まさかコロナでこんなことになるとは……」

 300万円ほどあった貯金は、中学受験で使い果たしていた。子どもは高校生になったが、学費まわりで月に8万円もかかる。会社員の夫一人の収入では、住宅ローンはとても払えない。9年前に購入したタワマンを売るしかない、と考えたのだ。

■減収が危機に直結する

 都心部の物件で買値よりも高値で売れる可能性があり、幸いにして6500万円で売れた。夫婦は持ち家は失ったものの、手元に数百万円の現金が残り、やや郊外の賃貸住宅に転居した。月々の家賃は12万円だ。

 ペアローンとは、夫婦や親子など複数の債務者がそれぞれローン契約を行い、お互いに連帯保証人になる方法だ。収入を合算して住宅ローンを組むので、1人で組むより借入額を増やせる、というメリットがある。

 だが、専門家からは、ペアローンのあまりに高いリスクを改めて注意喚起された。

「収入が減らないと想定したローンで、離職や雇用形態の変更など、ライフステージによる収入の変化は考慮されていない。組むべきでなかった」(専門家)

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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