「監督とは長い間コラボしてきたし、これは私にとって非常に特別な作品だと感じる。彼女がいかに私を信頼してくれているかの証しだから、責任は重大だった」

 パリ生まれのパリ育ち。13歳で子役デビューし、17歳で仏アカデミー賞にあたるセザール賞にノミネートされ、本国では人気俳優として活躍する。他方、過去作で仕事をした監督のセクハラを告発し、ロマン・ポランスキー監督のセザール賞最優秀監督賞受賞に対し抗議するなど、仏の#MeTooムーブメントを牽引する存在としても知られる。スクリーンに登場し、こちらを鋭いまなざしで見据えるエロイーズは、どこかアデル・エネル本人と重なるように思えるのだ。

◎「燃ゆる女の肖像」
18世紀フランスの貴族の娘と女性画家の鮮烈な愛の物語。12月4日から全国順次公開

■もう1本おすすめDVD「ぼくの名前はズッキーニ」

 ジル・パリスのベストセラー小説『ぼくの名前はズッキーニ』を原作に、シアマ監督の脚本で2016年に映画化。ズッキーニ(仏語ではコジェット)と名乗る少年は、アルコール依存症の母を亡くして孤児院に送られ、悲しい過去を持った子どもたちと出会う。

 ストップモーション・アニメーションで描かれた本作は、一見すると子ども向け映画のようだが、そうではない。過酷な現実に直面することを強いられた子どもたちのサバイバルの物語で、次々に明かされる孤児たちの過去はどれもリアルで痛々しい。大人の描写も現実的で的を射ている。

「燃ゆる女の肖像」が、自分とは関係なく回る世界を女性の視点から描いた映画だとしたら、本作はそれを子どもの視点から描いた映画だ。大人の身勝手で醜い面と、温かく美しい面の両方が描かれ、孤児たちの描写や会話がシンプルかつ力強く胸を打つ。警察官のレイモンや孤児院で世話をしてくれる先生との、心温まる触れ合いや思いやり溢れる逸話が、暗黒の世界に差す光のように輝き、ポジティブな気持ちにさせてくれる。米アカデミー賞長編アニメーション部門ノミネートをはじめ、多くの賞を受賞した。

◎「ぼくの名前はズッキーニ」
発売元・販売元:ポニーキャニオン
価格3800円+税/DVD発売中

(ライター・高野裕子)

AERA 2020年12月7日号