エンジニアとして本格的なキャリアを考えると、それでは足りないかもしれない。しかし、エンジニアを目指すにしても、仕事の内容次第で必要な知識は異なる。2人の目的はあくまで会社の営業に活用できる知識を身につけること。詳細を突き詰めるより、割り切って大枠で理解することを優先した。

 卒業制作で、作りたかったダイレクトマッチングアプリを完成させた。講座を終え、2人は新たな試みの準備を始めている。付き合いのある顧客が、デジタル技術やサービスを導入する際のコーディネート役になることだ。渡邉さんはこう話す。

「これまでクライアントとの接点は、リアルイベントという『点』でしたが、デジタル技術やデータ活用で、中長期的にプロデュースする『線』の付き合いができるようになる。よりクライアントの懐に入れるようになります。大きな武器になると思います」

■ハイブリッド人材育成

 職種にかかわらずDXの本質を理解し、エンジニアと非エンジニアが同じ目線に立つための土台を築きたいと、プログラミング研修を採り入れる企業も出てきた。楽天では、18年からビジネス総合職の新人研修の一環で、プログラミングやAI、データ活用の基礎知識を学ぶ。期間は最長で約半年間で、研修の最後はチームに分かれ、プロダクト開発に挑む。

 参加者からは「営業職だが、単純な作業があると『これは自動化できるのでは?』と工数を減らすための思考や提案ができるようになった」といった効果を実感する声が上がったという。グループ人事部人材開発課の堀井さくらクリスティーナさんは、研修の狙いを解説する。

「講座ではプログラミングだけでなく、データ分析やAIの基礎知識も学びます。楽天のようにあらゆるデータを膨大に保有する会社では、それらを共通言語として理解し、ビジネス部門とテクノロジー部門が対話していくことで、意思決定の質やスピードも上がると考えます。エンジニア・非エンジニアという枠組みではなく、『ビジネス+テクノロジー』のハイブリッドな人材を育成したい」

 企業がDXやプログラミング学習に意欲的であっても、今までなじみのなかった人にとっては戸惑いを覚えるだろう。タレントでソフトウェアエンジニアの池澤あやかさん(29)はこうアドバイスする。

「要は機械に任せるべきことは機械に任せ、人ができることは人がやる。プログラミングはあくまでもツールの一つでしかありません。自分の仕事に何を生かせるか意識して勉強すれば、きっと楽しくなると思います」

(ライター・市岡ひかり、編集部・福井しほ)

AERA 2020年12月7日号より抜粋

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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