事態が一変するのは、この答弁の直後だった。辻元議員は「私、どうしても納得いかないので、ホテルに問い合わせをいたしました」と、安倍前首相が、過去7年間の間に3回、前夜祭を開催していたホテルと直接やりとりして入手した一通の文書を突きつけた。そこには、これまでの安倍前首相の答弁を真っ向から否定するホテル側の回答があった。

 辻元議員Q:貴ホテルが見積書や請求明細書を主催者側に発行しないケースがあったでしょうか

 ホテルA:ございません。主催者に対して見積書や請求明細書を発行します

 Q:貴ホテルの担当者が金額などを手書きし、宛名は空欄にしたまま領収書を発行したケースはあったでしょうか

 A:ございません。弊ホテルが発行する領収書において宛名を空欄のまま発行することはございません

 Q:ホテル主催ではない数百人規模のパーティー、宴会で、代金を主催者ではなく、参加者個人一人一人から会費形式で貴ホテルが受け取ることはありましたか

 A:ございません。ホテル主催の宴席を除いて、代金は主催者側からまとめてお支払いいただきます

■入り口出口ふさがれた

 この文書は辻元事務所がホテル側の担当者に問い合わせ、「口頭だと誤解があったら困るから、正式に文書で出したい」として回答してきたものだという。この日のことを辻元議員はこう振り返る。

「あの文書が決定的な証拠になり、安倍前首相は『詰んで』いたんです。当日、私は午前11時10分からの質問だったんですけど、この文書が届いたのはその30分前でした。この文書を見たとき『政権吹っ飛ぶやんか』と、背筋がぞっとして、身震いしながら質疑に立ったことを覚えています」

 この直後、辻元議員はある自民党幹部に「あのホテルの回答見た?」とたずねた。すると、その幹部は苦笑いしながらこう答えたという。

「入り口も出口もふさがれて、あとは穴掘って逃げるしかないな……」

 この文書が、8月の突然の首相退陣表明に至る重要な布石になったのは間違いない。

 追い詰められた安倍前首相はこの日の午後の関連質疑でこう開き直った。

「それ(総理大臣としてのこれまでの発言)を信じていただけないということになれば、そもそもこの予算委員会が成立しないことになってしまう」

※【「桜を見る会」前夜祭費用の検察捜査スクープは官邸が読売にリークか 安倍失職までの道筋は?】へ続く

(編集部・中原一歩)

AERA 2020年12月7日号より抜粋