北大時代の西浦さんと親しく交流していた横田さんはこう振り返る。

「西浦先生が発表した段階では、治療法は手探りの状況でしたし、今のように新型コロナに感染しても発症せず、自然に治癒している人が多いことや、感染者クラスターを生み出すリスクの違いによって、1人が感染させた人数に集団内で大きな異質性が認められることがよくわからない時期でした。あの時点でベストの予測をされた、と僕らは考えています」

 留意しないといけないのは、西浦さんはあくまで「まったく感染対策をとらなかった場合」という前提での予測値として説明していた点だ。国の緊急事態宣言のタイミングはともかく、4月以降、国民の多くが危機感をもって行動制限したり、ソーシャルディスタンスに気を使うようになったりしたため感染を抑え込むことができたのは紛れもない事実だ。

 今回のグーグルの予測情報についても、横田さんは同様に捉えるべきだと指摘する。

「今のままでいけば、という悲観的なシナリオに基づく予測と捉えるべきです。政府が今後、再び緊急事態宣言を発令するなど人の流れを根本的に変える政策に踏み切った場合、予測は外れるでしょう。GoToキャンペーンも含め、政府がどのタイミングでどれくらいの規模で行動制限をかけるかによりますが、効果的な対策がとられた結果、うまく抑え込むことができれば、『良かった』と受け止めるべきだと考えます」

■情報の一つとして活用

 予測精度の限界についてはグーグルも「予測結果は学習に使用されるデータに依存する」と強調している。データソースに最新情報が反映されるまで数日かかるため、出力された予測データにすべての最新のデータが反映されない可能性や、検査の報告方針などに変化が起きた場合、これらの変化が予測結果にタイムリーに反映されない場合もあるという。

 監修に当たった前出の宮田さんもこう注意を促す。

「自治体によっては日をまたいで報告が遅れて公開されるエリアもあり、その分、直近の状況が過小評価される傾向も見受けられます」

 グーグル広報部は「あくまで予測であることに留意していただき、医療機関や行政機関などが感染拡大に対応するための情報の一つとして活用されることを期待しています。個別の数字ではなくトレンドとして捉え、複数のデータソースと組み合わせて活用してほしい」としている。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年12月7日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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