「感染予測が外れる最大要因は人間の行動の不確かさによるものです。スマホにグーグルマップをインストールしている人は、都市・地方を問わず日本中にランダムにいます。こうしたマップユーザーの承認さえ得られれば、グーグルはプライバシーを保護した形で移動情報を把握することができるのが一番の強みでしょう」

 これはグーグルが今年4月から世界で公表しているスマートフォンの位置情報を使った人々の移動状況の分析データで、「コミュニティモビリティレポート」と呼ばれている。食料品店や公園など特定の場所を訪れた人の数の変化を時間の経過とともに把握できる。こうした国内データを利用してAIをトレーニングしたため、予測結果は感染に対する人々の反応などを含め日本独自の状況が反映されたものになっているという。

 また予測モデルは、個人の状態を「感染前」、「曝露」(感染したものの他者を感染させる段階に至っていない状態)、「発症」(他者に感染させるリスクがある状態)、「回復」(回復して免疫を獲得または死亡)の4区画に分類。AIはこの区画を人がどのように移動するかを複数のデータソースに基づいて算出している。この遷移率は都道府県ごとに判断されているという。

 東京都と神奈川県を比較してみよう。

 11月23日時点のグーグルの予測情報は、東京都が今後28日間で陽性者数は1万7277人、亡くなるのは59人と予測、神奈川県は陽性者数が5993人、54人が亡くなると予測している。神奈川県の死亡者の比率が高い理由について横田さんはこう推測する。

「陽性者の年齢や、地域ごとの年齢分布も加味されているからこそ出せる予測値なのだと思います」

 AIの機械学習と良質なオープンデータを駆使すれば、古典的な数理モデルによる予測の限界を超えられる。数理モデルを使った感染予測といえば、政府の感染封じ込め策を先導した元北海道大学教授の西浦博・京都大学教授が示した予測値が記憶に新しい。

■予測値が「意識」高める

 2月下旬に厚労省にクラスター対策班が発足した際、データ解析を託された西浦さんは中国の感染データをもとに日本の流行ピークを4月と見通し、感染拡大を抑制する方策として人との接触を8割減らすよう提言し、「8割おじさん」の異名を取った。西浦さんは4月の記者との意見交換会で「まったく感染対策をしなかったら、約85万人が重症化し、その約半分(約42万人)が死亡する」との被害想定を発表。すると、接触8割削減の方針は「過大な制限」と集中砲火を浴びた。

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