運と縁とタイミングが重なり、桑田にとって23年ぶりとなる他アーティストへの楽曲提供が実現した。坂本の目に、桑田という存在はどう映ったのか。

 40年以上前に私が初めて知った頃から常にトップを走ってこられて、時代ごとにヒット曲を出されてきた。そして今なお新しいものをどんどん生み出している。そんなすごい方なのに、初めてお会いさせていただいた時、「わざわざお越しいただいてありがとうございます」とおっしゃったんですよ。コンサートのDVDを拝見していても、1曲ずつお客さまに向かって「ありがとう」と語りかけたり、裏方のスタッフさんに対しても、感謝の言葉をきちんと口にしたりする。本当は誰も近づけないような位置にいらっしゃる方なのに、私たちと同じ目線で接してくださって、その同じ目線から世の中をご覧になられている方なのだと感動しました。

■自分の殻を破らねば

 今年の夏、本作のミュージックビデオの撮影に臨んだ。桑田のオリジナルストーリーをもとにした、サスペンスドラマを思わせる重厚な作品で、悲恋の主人公を坂本が、相手役を俳優の戸次重幸が演じた。桑田との念願のコラボを実現させた今、坂本は心に期するものがあるという。

 今年4月の外出自粛期間中、自宅で自主練をする様子をYouTubeで配信して、そこで素の自分をさらけ出したことで、すごく楽になったんです。これまでは和服という鎧を身につけて、「演歌歌手の真面目なイメージを壊しちゃいけない」とか、どこか抜けきれない自分がいたことを痛感しました。

 そんなタイミングで「ブッダのように私は死んだ」をリリースできることに運命を感じるんです。「今ここで自分の殻を破らないといけない」と覚悟を決めることができました。桑田さんが私のダークな部分や、今まで誰にも見せたことがなかった部分を、裏も表も引き出してくださったおかげです。この歌の主人公のように、全部そぎ落とした状態で、自分のすべてをこの歌に懸けたいと思っています。

(編集部・藤井直樹)

AERA 2020年11月30日号