東京都北区にある児童養護施設・星美ホームでは、10人近い卒園生がACHAプロジェクトで振り袖を着た。卒園した子どもたちは二十歳になると地元北区の成人を祝う会に参加するが、家庭の環境や経済状況など、振り袖を着て参加できる卒園生は少ない。職員の平澤和彦(50)は、ACHAプロジェクトで振り袖を着た卒園生が「いろんな人に寄ってたかってお世話されて、もう、恥ずかしい」と、照れながら見たことがないような嬉しそうな顔をしたのを覚えている。平澤によると、この「いろんな人」が関わっているところが魅力だ。

「(家族の)虐待が原因で児童養護施設で育つ子どもの割合はここ10年で増えました。調査では6、7割とされていますが、現場の実感では8割に達します。小さい頃に特別な大人との信頼関係を形成することができなかったことによる愛着障害は全員に見られます。親に受け入れられなかった寂しさや怒りを心の奥底に抱え、心に深い傷を負った子どもを大人がひとりで支えきれるものではありません。多くの大人に関わってもらっていると実感できることは非常に大切です」

 山本が施設で育った当事者であることも、子どもたちが信頼を寄せるポイントだと平澤は言う。

「厳しい運命を背負わされた子どもたちです。彼らは簡単に大人を信用しませんが、同じ境遇にいた人の思いは信じられるんです」

 振り袖を着た卒園生からの感謝の言葉を山本経由で受けとったのは、滋賀県の児童養護施設・守山学園職員の本好彩乃(40)だ。本好は<16年間育ててくれてありがとう。>という思いがけないメッセージに泣いた。複雑な生い立ちの少女を果たして支え切れたのか気がかりだったためだ。本好は山本のことを「卒園した子どもと職員をもう一度つなげてくれる架け橋」と言った。

 これまでに130人がACHAプロジェクトで振り袖を着た。その一人、早輝(20)は山本を「まこちゃん、憧れです」。ある女性は「まこちゃんみたいに当事者支援活動をしたい」と話した。

(文・三宅玲子)                                                 

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