児童養護施設で育つのは子どもの責任ではない。それなのに元当事者が、国のおかげでと官僚に向かって頭を下げる。違和感のある風景だが、半分以上は山本の本心だ。それほどに施設職員から愛された経験が山本にはあるのだが、目的はまだある。児童養護施設がどういう場所なのか、もっと広く知ってほしい。そのためにどう伝えるべきかを考え抜いてこの日の面会に臨んでいた。

 自身も生後4カ月で乳児院に預けられ、児童養護施設で育った。児童養護施設は原則として18歳で卒園となる。その後は独り立ちしなくてはならず、児童養護施設出身者の多くが経済的にも精神的にも厳しい状況に置かれ、葛藤する。山本もまた、施設を出てからの数年間、深い絶望とともに漂った。その経験を経て、児童養護施設を巣立った若者に振り袖を着せて成人を祝うACHAプロジェクトというボランティア活動を主宰している。この日の面会は、プロジェクトを通して当事者との接点を持ち続けている立場から、当事者の悩みを届けるという趣旨で実現したものだった。

 週末のある朝、施設職員に連れられた二十歳の女性を埼玉県上尾市の寺で山本が出迎えた。女性は家庭の事情で高校から児童養護施設で生活した。待ち受けたのは、山本の他に、メイクアップアーティストの金井舞子(47)、着付師の上床千里(56)、カメラマンの標隆司(39)。晴れ着を着せ、記念写真を撮る彼らはボランティアだ。

 美しい晴れ姿が完成し、本堂で撮影が始まった。着物の足さばきになれない彼女の足元を山本が気遣い、手を添えた。本堂の外や庭先へと場所を移して撮影は続く。小雨が降ると、山本がさっと傘をさしかけた。晴れ姿を見にきた恩師が「今日は一日、お姫さまだね」と漏らした。

 恩師から花束が贈られ、100枚を超えるカットから選んだ写真をプリントしてアルバムをつくると、セレモニーが用意されていた。施設職員からアルバムとともに祝いの言葉をもらうのだ。最後に成人の決意を求められた彼女ははにかみながら、「やさしい大人になりたい」と答えた。

 スタッフ編成、当日の段取り、撮影場所との交渉の一切を山本が取り仕切る。本人とは事前に打ち合わせをし、撮影場所や着物の色柄など、希望にできる限り応える。至れり尽くせりの演出をするため、着せるのは1日にひとり。

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厳しい運命を背負わされた