「コロナ禍になって、これほど人が、他人を思いやっている社会を初めて見ました」

 ある店は客の安全を考え、席数を減らして感染予防対策をする。失業した人が「誰かの役に立てないか」と困っている人のために立ち上がる。「生産性」とは正反対の行動だが、彼らはどこか幸せそうにも見えると、河合さんは言う。「『自分が誰かの役に立ち、つながっている』と思える先にお金が生まれ『生産性が向上』する。そう価値観が変わった人は多いと思います。コロナ禍は従来の生産性という物差しから『個』が抜け出すチャンスになる。そんな期待もあるんです」

(編集部・小長光哲郎)

■東京堂書店の竹田学さんオススメの一冊

『病と障害と、傍らにあった本。』は、これまでありそうでなかった、難病や障害当事者、介護者による本にまつわるエッセー集だ。東京堂書店の竹田学さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 ありそうでなかった、難病や障害当事者、介護者による本にまつわるエッセー集である。12人の書き手が紹介するさまざまな本は、人生を変えたなどと大仰には語られない。病や障害は千差万別の、いわく言い難い孤独な苦しみをもたらす。その日々において、まさに傍らにあって、幾分かでも各々の生きる支えとなりえた本の記憶が静かに、控えめに語られている。

 特に印象に残った川口有美子の言葉を紹介したい。川口はALSの母を介護する過酷な暮らしのなかで神谷美恵子『生きがいについて』と出合う。<生きることに全力で集中していても必ず死は訪れる。だからこそ安心して死ぬまでただ生きればよいのだ。死ぬまで自分を大事にすればよいということなのだ>。生産性や自助が強要される現在、深く響く言葉だ。本書から読者の本の世界が広がることを願う。

AERA 2020年11月23日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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