河合薫(かわい・かおる)/1965年生まれ。全日本空輸を経て、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科で健康社会学を学び、執筆、講演活動を行っている(撮影/写真部・加藤夏子)
河合薫(かわい・かおる)/1965年生まれ。全日本空輸を経て、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科で健康社会学を学び、執筆、講演活動を行っている(撮影/写真部・加藤夏子)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

解雇や雇い止め、単身者世帯の困窮、居場所を失う高齢者──。河合薫さんによる『コロナショックと昭和おじさん社会』では、コロナ禍で噴出した課題が、実は「昭和モデル」から脱却できないことに原因があると説く。著者の河合さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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「コロナ」と「昭和おじさん」。意外な言葉の取り合わせだが、健康社会学者の河合薫さん(55)は「これは格差社会についての本です」と話す。

 非正規社員の雇い止め、孤立する高齢者や困窮する一人親世帯。さまざまな問題が「コロナ禍で」あらわになった、ように見える。しかし河合さんは、実はこれらはコロナ禍以前から社会に内在していたものだと指摘する。

「現在の社会の仕組みの多くは1970年代の家族の形、雇用の形を前提に作られたものです。たとえば男性の9割以上が正社員雇用で一家の大黒柱、女性は腰掛けOLを経て主婦になり、子どもを2人もうける、など。いまや共働きや非正規雇用、単身世帯が急増して社会の形は大きく変わったのに、いまだにそんな『昭和モデル』を前提に社会保障政策などが動いている。そこからくる歪みが、コロナ禍で噴出、顕在化したんです」

 象徴的だったのが2月下旬、当時の安倍首相が突然発表した一斉休校。誰が子どもの面倒を見るのか。対応できたのは「昭和モデル」からこぼれ落ちなかった人たち。まさに昭和おじさん的発想による場当たり的な政策に、そこからこぼれ落ちていた共働き世帯や親が非正規の家庭などは、対応できなかった。

「コロナは、私たちが見ないふりをしてきた『パンドラの箱』を開けただけです」

 本書はコロナ禍で「居場所」を失った人の様々なケースについて豊富なデータや取材で事実を積み上げ、背景にある昭和社会のツケと、それを「絆創膏対策」のみで先送りしてきた点を鋭く指摘する。

 人間は社会的な存在。誰もが環境によって変わる。専門の健康社会学とは、「環境の中の個を見つめる学問」だ。そんな河合さんから見て、今後ますます「生産性の向上」が重視され、「人よりもカネ」の方向に流れる社会を危惧する一方、感じる光もある。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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