Roy Andersson/1943年、スウェーデン・イエーテボリ生まれ。長編映画「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」(70年)でデビューし、CMディレクターとしても活躍。「散歩する惑星」(2000年)で第53回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。続く「愛おしき隣人」(07年)で現在のスタイルを確立。「さよなら、人類」(14年)で第71回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)、長編映画6作目となる本作で、第76回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞 (c)Studio 24
Roy Andersson/1943年、スウェーデン・イエーテボリ生まれ。長編映画「スウェーディッシュ・ラブ・ストーリー」(70年)でデビューし、CMディレクターとしても活躍。「散歩する惑星」(2000年)で第53回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。続く「愛おしき隣人」(07年)で現在のスタイルを確立。「さよなら、人類」(14年)で第71回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞(グランプリ)、長編映画6作目となる本作で、第76回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞 (c)Studio 24
「ホモ・サピエンスの涙」/“映像の魔術師”による5年ぶりの新作。11月20日から東京・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開 (c)Studio 24
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「 ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」/発売元:ニューセレクト 販売元:アルバトロス、価格3800円+税/DVD発売中 (c)Mamocita 2018
「 ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」/発売元:ニューセレクト 販売元:アルバトロス、価格3800円+税/DVD発売中 (c)Mamocita 2018

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【映画「ホモ・サピエンスの涙」の場面カットはこちら】

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 まるで動く絵画か、精巧なドールハウスを見ているようだ。その完璧な構図のなかで、星新一のショートショート、いやそれよりも短いシーンが描かれる。ときにプッとおかしく、どこか哲学的。世界中の著名監督に敬愛されるスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督(77)の新作は、そんな断片を33個集めた作品だ。

「私はもともと作家になりたかったんです。第2志望は画家。第3志望は音楽家でトロンボーンを演奏していました。実は映画は第4志望だったんですよ(笑)」

 映画を選んだ理由は、15歳のころ「自転車泥棒」や「ヒロシマ・モナムール」を観たことだ。困ったり、途方に暮れたりしても、人生は続く。市井の人々の営みは、人間の存在について深く考えさせてくれた。

「私は国や言葉を超えるものが真の芸術だと思っています。映画は言葉を超えて世界中の誰もが共有できるものです。作家志望のころは起承転結のある物語を考えていましたが、映画ではそこからもっと自由になりたかった。そこで断片をつないでいく、いまのスタイルに徐々に変化しました」

 シーンのインスピレーションは夢から得ることも多いという。あるシーンでウェイターは盛大にワインをこぼし、神父は「神を信じられない」と嘆く。すべてのシーンに人の営みの“妙”がつまっている。

「私は人間の足りない部分や、“もろさ”に興味を持っています。人はすぐに道に迷い、人生に迷う。本当はすべてをコントロールしたいのにいつも失敗し、それでも何度も何度もがんばる。その姿は切ないけれど美しい。それを映画のなかで描きたいのです」

 絵画からも大きく影響を受けている。空中を哀しげに漂う男女のシーンはシャガールの絵に、横たわった娘を抱きかかえる父親のシーンは、ロシアの画家イリヤ・レーピンの絵画に重なる。撮影は一つのシーンを除いてすべてスタジオのセットで撮影され、背景もほぼCGを使わず、精巧な模型で作られている。

「私はもう完全にロケ撮影をあきらめました。外には私の表現したい世界を邪魔する余計なものが多すぎるのです」

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