AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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まるで動く絵画か、精巧なドールハウスを見ているようだ。その完璧な構図のなかで、星新一のショートショート、いやそれよりも短いシーンが描かれる。ときにプッとおかしく、どこか哲学的。世界中の著名監督に敬愛されるスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督(77)の新作は、そんな断片を33個集めた作品だ。
「私はもともと作家になりたかったんです。第2志望は画家。第3志望は音楽家でトロンボーンを演奏していました。実は映画は第4志望だったんですよ(笑)」
映画を選んだ理由は、15歳のころ「自転車泥棒」や「ヒロシマ・モナムール」を観たことだ。困ったり、途方に暮れたりしても、人生は続く。市井の人々の営みは、人間の存在について深く考えさせてくれた。
「私は国や言葉を超えるものが真の芸術だと思っています。映画は言葉を超えて世界中の誰もが共有できるものです。作家志望のころは起承転結のある物語を考えていましたが、映画ではそこからもっと自由になりたかった。そこで断片をつないでいく、いまのスタイルに徐々に変化しました」
シーンのインスピレーションは夢から得ることも多いという。あるシーンでウェイターは盛大にワインをこぼし、神父は「神を信じられない」と嘆く。すべてのシーンに人の営みの“妙”がつまっている。
「私は人間の足りない部分や、“もろさ”に興味を持っています。人はすぐに道に迷い、人生に迷う。本当はすべてをコントロールしたいのにいつも失敗し、それでも何度も何度もがんばる。その姿は切ないけれど美しい。それを映画のなかで描きたいのです」
絵画からも大きく影響を受けている。空中を哀しげに漂う男女のシーンはシャガールの絵に、横たわった娘を抱きかかえる父親のシーンは、ロシアの画家イリヤ・レーピンの絵画に重なる。撮影は一つのシーンを除いてすべてスタジオのセットで撮影され、背景もほぼCGを使わず、精巧な模型で作られている。
「私はもう完全にロケ撮影をあきらめました。外には私の表現したい世界を邪魔する余計なものが多すぎるのです」