11年、東日本大震災でもそうだった。那須御用邸の風呂を被災者に開放すると宮内庁が決め、タオルの袋詰め作業を会議室でしていた3月24日。マスク姿の紀子さま眞子さま佳子さまがいつの間にか、そこで作業をしていた。元朝日新聞編集委員の岩井克己さんはこのことを「発表せず、報道もされない“隠密”行動だった」と紹介し、「ボランティアや市民活動家のような若い行動力が秋篠宮家の持ち味だ」と書いていた。

 もちろん「天皇家の心」は、被災者、医療従事者と共にある。だが、それを素早く形にするのは、「次男」だからこそだと思う。絶対に守るべき天皇の「尊厳」が、素早さのブレーキになるのだと想像する。

■皇嗣だからできること

 それにしても、秋篠宮さまの今は、国民の今だ。その立場を直接的に変えたのは「生前退位」だが、複雑化の始まりは06年、長男悠仁さまの誕生だったと思う。皇室にとって41年ぶりの男子という慶事は、「次男家に生まれた将来の天皇」という構図となり、一部メディアが紀子さまバッシングを始めた。「生前退位」は高齢化社会を、「41年ぶりの男子」は少子化社会を映す。

 そしてコロナという厄災で立皇嗣の礼が7カ月延期されたことも、思えば秋篠宮さまらしい。誰もが苦しんでいるコロナ禍は、皇室も例外でない。そのことを端的に示した格好だ。

 そして今、皇室と国民の距離を遠ざけているのがコロナだ。国民との触れ合いが敬愛へとなった「平成流」が通じない。この状況は、まだしばらく続くだろう。令和の皇室の、正念場だと思う。

「天皇家の言葉とは違う」皇嗣だからできることがある。たぶん秋篠宮さまは、もう動きだしているはずだ。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2020年11月23日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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