ただし、両社の治験が終わるのは早くても2022年だ。感染者が164人になるまで治験参加者の登録を続け、参加者がワクチン(あるいは偽薬)の投与を受けてから2年経つまで、効果の持続や安全性などについて継続的に経過観察を続ける。

 日本政府は、来年6月までに1億2千万回(6千万人)分のワクチンの提供を受けることで両社と基本合意している。10月20日以降、国内でも安全性などを確認するための初期段階の治験が160人を対象に始まった。ファイザー日本法人によると、両社は国内の治験結果と、米国など国外で実施された治験の結果を基に、日本でも承認申請を行うという。

 国内にも、治験が終了する前に承認する仕組みがある。緊急性が高いワクチンや治療薬について、日本と同様の承認制度がある海外の国ですでに販売されている場合などに限り、独立行政法人医薬品医療機器総合機構での審査手続きを簡略化する「特例承認」だ。

■「急がば回れ」の姿勢

 政府は来年前半までに「全国民に提供できる数量のワクチンの確保を目指す」とし、ファイザー・ビオンテックに加え、英オックスフォード大学と共同でワクチンを開発する英製薬企業アストラゼネカと、来年の3月までに3千万回分、総計で1億2千万回分のワクチン供給を受けることで基本合意している。

 また、米国立保健研究所と共同で開発している米バイオ企業モデルナとは来年6月までに4千万回分、9月までにさらに1千万回分の供給を受けることで基本合意している。

 国内の製薬企業5グループも、国立感染症研究所などと共同でワクチン開発を進めている。ただし、治験が始まったのは1グループだけで、当面は輸入ワクチンが主体になるとみられる。

 石井さんは、もし基本合意したワクチンがすべて来年前半に輸入できたとしても、短期間で国民の大部分に接種する、といった接種の進め方には反対する。

「新しいワクチンなので、治験で4万人規模に接種して安全性に問題がなくても、1億人規模で接種すれば予想もしない副反応が起きる可能性がないとは言えない。『急がば回れ』という姿勢で、ある程度まとまった人数に接種しては安全性を確認し、また次に進む、という手続きを経ながら、徐々に接種を進めていくべきだ」

(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)

AERA 2020年11月23日号より抜粋