これまで写真撮影は一切NGだったが、今回は撮影OKの場所を作ったので、SNSで広がったということもあるが、それにしても反響が大きい。

「一般的に、染織の企画は女性の来館者が多く、陶磁器は男性、海外をテーマにした展示は若い男性──と、傾向があるのですが、今回はまさに老若男女、いろいろな世代の方が来ています。リサーチとして、来館者へのインタビューをしていると、興味を持ったきっかけが多様であるのも特徴的です。デザインや文様、手仕事に関心があるという方など、いろいろな入り口があるのがアイヌ工芸の強みだと思います」(古屋さん)

 同時に、ここ数年の社会の変化が少数民族としてのアイヌへの関心につながっていることもありそうだ。自国主義が叫ばれる一方で、BLMやLGBTといった社会のマイノリティーへのまなざしが、着実に育っているのではないか。

「先住民族としてのアイヌの歴史をあまり知らない方々が、アイヌ工芸の美しさに感動したことで、民族としてのアイヌの歴史に関心を持つこともあるでしょう。自分の中に『アイヌ文化』という引き出しができることが大事ではないかと思います」(同)

■輝き生むアイヌの生活

 工業デザイナーでもある、同館の深澤直人館長は柳宗悦とアイヌについて、こう語る。

「柳は様々な手仕事の魅力に引き寄せられながら生き、それらを『民藝』と名付けました。多くの人が惹きつけられる魅力を持っている、アイヌの手仕事もその一つです。柳は民藝の普遍性、創造と共感に対して自信を持っていた。アイヌが生きた道があればこそ、その生活の中から生まれたものたちが今でも輝いて見える。生活に寄り添う道具とはそういうものだと思います」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2020年11月16日号