――その不安に抗うために飛び込んだのがホストの世界だ。18歳の春だった。だが、最初の1年は売れなかった。コンビニのパンで空腹をしのいだ。

ローランド:ホストは女の子と話すのが仕事なのに、全く喋ることができない。致命的ですよね。お客さまは楽しんでくれないし、あからさまに不満そうな顔をする。何より、その表情を目の前で見ないといけないのがつらかった。

 少女漫画や恋愛教本を読み漁って、その知識を現場でアウトプットして、女性のリアクションを観察した。何度、トライ・アンド・エラーを繰り返したかわからないですね。

――初めて売り上げナンバーワンになったのは22歳の時だ。ホスト界の常識を覆す、酒を飲まない接客スタイルも確立した。

ローランド:酒を飲んで酔うと、陽気になるというメリットもあるけど、判断が鈍ったり横柄になったり、デメリットもあるじゃないですか。でも、素面(しらふ)なら一定のクオリティーでサービスができる。運転もできる。飲んでいるホストとは違うよ、というアピールも込めて、ロールスロイスの車体に自分の名前をでっかく入れて、歌舞伎町の細い道を遠回りして出勤するんです。売り上げだけでなく、あんなホストはかつていなかったね、と言われる唯一無二の存在でありたいと思っていました。

――頂点に立ってしばらくすると、不安を意識するようになる。

ローランド:年を重ねていったとき、サッカー選手なら例えば指導者の道があるかもしれない。でも、ホストにはその先の明確なビジョンがなかった。だから一つの正解例を作りたくて起業したんです。漠然と不安を抱えているホストたちの未来になりたかった。

――原動力は、「唯一無二の存在になる」という信念と、「自分は特別だと信じる思考」だ。自著タイトルにもなった「俺か、俺以外か」という言葉が象徴する。特別な存在になるためには、自分は特別だと信じ、努力することだという。

 圧倒的な自信と自己肯定感があるように見えるが、「決して強い人間ではない」という。他人からどう見られているか気になり、SNSでエゴサーチをしていた時期もある。

ローランド:顔も見たこともない人間が、好き勝手言っているだけでも、発言がつまらない、態度が気に食わないという書き込みを見て、命が削られる思いがしたんです。

 だから考えた。登山に例えるなら、ヒマラヤのエベレストやアンナプルナであれば、山頂から見下ろす景色は、命をかけて登ってよかったなと思えるでしょう。だけど、SNSはスマホのわずか10センチ四方の世界。命を削ってまで見る景色ではない。だからSNSは、一方的に発信するだけ。好きなことを書くだけにしています。

――仕事では当然、失敗もある。けれども、右に進んで失敗したとしても、左に行っていたらもっと大きな失敗だったと考える。自分らしく生きる秘訣は、ポジティブな面を探し、前向きに考えることだ。

ローランド:「やまない雨はない」という言葉があります。もっと自分流に解釈するなら、雨がやむのを待っているだけだと、能動的な状態ではない。やまない雨があるならば、その雨雲の上に行けばいいんです。そこに行けば必ず晴れますから。雲の上に行くという発想と努力をしている人がどれだけいるか。少し思考を変えるだけで、自分らしい道は必ず開けます。

(編集部・中原一歩)

AERA 2020年11月16日号より抜粋