逆境の中、野本さん自身が変化した。社長の意見を受け、空気を読みつつ、他の同僚や部下とすり合わせていくという従来のやり方から、最初から自分が全ての結果責任を引き受けると割り切るようになった。この変化はリモートワークの産物だ。

「同僚や部下に対して、何をやってほしい、これを期待している、とはっきり言葉で伝える。対面ならなんとかなっても、リモートでは言葉で伝えないと問題が起きる。空気を読まずに自分の意思を真正面から言葉にできたことで、自分も責任から逃げないという覚悟ができました」

 逆境時にこそ、思いを言葉にして整理する。「もし、会社がなくなったらどうしよう」などとネガティブには考えない。言葉は言霊(ことだま)。この半年、ずっと口にしてきた言葉がある。

「大丈夫、ピンチはチャンス。明けない夜はないから」

■「自分」に合わせる我慢も無理もNG

 昨年11月、ドバイの世界選手権に挑む義足のハイジャンパー、鈴木徹さん(40)は笑顔だった。

4年前のリオ・パラリンピックとは全く異なる表情だ。リオではその4カ月前に同じ会場で2メートル02を跳び、アジア記録を更新した。その記録を跳べばメダルは確実だったが、力を出せずに4位に終わった。

「『心技体』という言葉があるけれど、テクニックや体が万全でも心が整っていなければうまくいかない。リオではゾーンと呼ばれる、すごく集中した状態を作り出そうとしていた。それが自分を苦しめてしまった」

 リオから戻り、スポーツメンタルコーチとしても活動するタレントの山本シュウさんと話す機会を持った。山本さんは鈴木さんから、試合で良かったときと悪かったときを聞き出し、紙に書き出していった。すると、調子のいいときはリラックスし、ライバル選手にも自ら話しかけていた。周囲と和やかな雰囲気だったときのほうが力を発揮できていたことがわかった。

「これまでメンタルリハーサルをしたり、ルーティンを作ったり、さまざまな方法を試したけれどうまくいかなくて。テクニックより、自分に合ったスタイルが大切なのだと気づきました」

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