(1)妻「あなたって、結局育児は妻が尻ぬぐいするもんだと思ってるでしょ。この前も下の子のオムツを替えたあとゴミ箱へ持っていかずに床に置きっぱなしだったし、脱がせた靴下も放置で、お尻ふきのフタも開けっ放しで、だからお尻ふきが乾いちゃってたんだけど。自分が全責任を負うと思っていたら、そんなことにはならないはずだよ」

(2)夫「ええと、僕は育児の尻ぬぐいは妻がしてくれると思っています。下の子のオムツを床に放置し、お尻ふきのフタも閉めずにいたので中身が乾いてしまいました。自分が全責任を負うと思っていれば、そんなことはしないはずです」

(3)夫「今ので合ってる?」

(4)妻「靴下が抜けてる!」

 みたいな具合です。しょうもない会話例で恐縮ですが。

 夫婦のどちらかが(1)に時間を割きすぎると、カウンセラーさんが「ちょっと長すぎ、そこでストップ」と止めに入ってくれます。(4)の判定を手伝ってくれることもあります。夫は後で、「マリッジ・カウンセリングって、審判がいる夫婦ゲンカみたいだね」と振り返っていました。

 カウンセラーさんの審判のもと1~4の応答を繰り返していると、自分たちが普段いかに相手の話を聞いていないかが炙り出されてきます。1分足らずのスピーチなんて簡単に復唱できると思っていたのですが、自分が聞きたくない話題が含まれていると、その話題が驚くほどすっぽりと抜け落ちてしまうのです。時には自分が信じたいように相手の話を捏造してしまいます。そして互いが互いを正しく理解しないまま、会話がどんどんすれ違っていきます。

 特に結婚生活が長くなってくると、夫婦ゲンカがパターン化したり、「また同じこと言ってる」と相手の話に耳を貸さなくなったりして、いい会話ができなくなっていきます。子どもがいると子どもの相手に時間とエネルギーを取られ、会話の応酬すら難しくなっていきます。夫婦関係は水槽のようなもので、水がどんより濁ってきても、毎日目にしている分、なかなかそうと気づきません。しかし一度カウンセリングという外の世界に開いて水を入れ替えると、水槽はまたきれいになります。完全に苔が生えて中身が見えなくなる前に、定期的なお手入れが必要。マリッジ・カウンセリングへ通って、つくづくそう感じました。

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◯大井美紗子
おおい・みさこ/アメリカ在住ライター。1986年長野県生まれ。海外書き人クラブ会員。大阪大学文学部卒業後、出版社で育児書の編集者を務める。渡米を機に独立し、日経DUALやサライ.jp、ジュニアエラなどでアメリカの生活文化に関する記事を執筆している。2016年に第1子を日本で、19年に第2子をアメリカで出産。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子

大井美紗子

大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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