「なかでも世界のクラフトビールのブームを牽引してきたのがIPAというスタイルのビールで、日本では15年ほど前に登場した『志賀高原ビール』がその走りです。IPAの苦みが、ピルスナーに慣れていた日本人に衝撃を与えた。アメリカでは、そのIPAの派生形であるヘイジーIPA(にごったIPAとの意味)というスタイルの、さっぱりしているのに味が濃いビールが、2~3年前からブームになっていますね」(岩田さん)

 IPAとはインディア・ペールエールのこと。18世紀末頃、インドにペールエールという種類のビールを送る際、傷みにくいように大量のホップをイン。こうして苦みと香りが強くなったペールエールが、IPAと呼ばれるようになった。

「クラフトビールは作り手の個性が強く出るもの。好みも人それぞれです。私の好みですか? そうですね。静岡県に昨年オープンした『ウエストコーストブリューイング』というブルワリーのヘイジーIPAが、今のイチオシになっています」(同)

 クラフトビールの楽しみ方は、いくつかある。まず最もポピュラーなのが、クラフトビール専門店に出かけていき、その店が仕入れたビールの樽からご馳走になる方法だ。キリンビールも、全国のクラフトビールを提供する「タップ・マルシェ」と呼ばれるサーバーの展開を18年に本格的に開始。昨年末の時点で、全国1万3千店舗の居酒屋や飲食店が設置している。

 また前出「スプリングバレーブルワリー東京」のような店舗併設型のブルワリーのレストランでできたてのビールを楽しんだり、グラウラーなどの容器に入れて持ち帰れたりするところも多い。

 もちろん、瓶や缶を通販で購入するのもひとつの手。10年ほど前にオープンしたクラフトビール専門のネットの酒販店「goodbeer(グッドビア)」の広報担当者、山岸れいなさん(32)はこう話す。

「箕面ビール(大阪府)の桃ヴァイツェンや、うちゅうブルーイング(山梨県)など、ECサイトに並べたそばから売れていく人気銘柄が入荷することも。日本でもブルワリーが増えるにつれ、瓶や缶のクラフトビールも充実。1本から買えて、冷えた状態で届くので、気になるクラフトビールを、気軽に試してほしいですね」

 ちなみに、前出の岩田さんによると、クラフトビールの本場アメリカでは以前からテイクアウトが盛んだという。

「ロックダウン中は飲みに行けないので、さらにテイクアウトが人気に。それも安くテイクアウトができる、缶ビールを作るための道具を持つビアバーに、人が殺到しているそうです」

 いや、自分はお道具にもこだわりたい。取材中に数本買ってしまったグラウラーをにやにや眺めながら、いつかこれを持って全国のブルワリーを訪ねる日に思いを馳せるのだった。(ライター・福光恵)

AERA 2020年11月9日号