「環境整備、そのための費用負担、コンテンツの用意、質の確保と課題は山積み。でも、ほかに選択肢がない状態でした」

 新入社員全員に携帯型Wi-Fiとタブレット端末を配り、映像コンテンツを51本用意した。生活リズムが崩れやすいことを見越し、健康管理のためのコンディショニング教育にも力を入れた。従来実施してきた体験型のコンテンツはできなかったが、基本的な知識教育は例年以上にうまくいったという。

「コンテンツを映像化してオンラインで行うことで、わかりにくかった部分を聞きなおして復習することができたようです。コミュニケーションも予想以上に円滑でした」(巽さん)

 例年研修最終日に行っているテストの平均点は、過去8年で最高だった。「満足度」「理解度」「(業務への)活用度」を測るアンケートでも、ほぼすべての講義で目標値を超えた。新入社員の平均睡眠時間も昨年より1時間以上伸びたという。

 ただし、これはレアケースかもしれない。「思うように研修できなかった」「来年以降どうすればいいのか」と話す企業関係者は多い。そして、新入社員のなかには今も完全在宅勤務が続く人もいる。

 職場のメンタルヘルスを支援する「みんなの健康管理室」代表で茗荷谷(みょうがだに)駅前医院院長の植田尚樹医師は言う。

「確かに在宅勤務にはメリットもあります。ただ、一度も出社しない完全在宅は新入社員のメンタルに大きな影響を及ぼします。私見ですが、週に2~3日は在宅勤務、残りは出社とするのがいいのではないでしょうか」

 リモートワークのストレスから適応障害を発症し、退職にまで追い込まれた経験のある女性は、新入社員のリモートワークはつらすぎるとしたうえで、こう結んだ。

「今も悩みながら在宅勤務している新入社員は多くいると思います。企業側には、リモートだからこそこれまで以上にまずはほめたり認めたりすることを忘れないでほしい。悩んでいる新入社員にも、自分を責めないでと伝えたいです」

(編集部・川口穣)

AERA 2020年11月9日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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